1.いきなり個人的な話から。かなり子供の頃からマンガやTVドラマ、つまりフィクション(ドラマツルギーのあり方)に対して猛烈な違和感を感じることがよくあった。勿論普通に面白がったり感動したりもしてはいたし、キャプラの作品なんかは大好きなのだけれども、極端な話ヒーローものとかを観ていても「そんな都合良くヒーローが現れて助けてなんかくれるもんか」と思ったりしていた。要するに「やなガキ」だったんだけどさ。カッコつけて言えば現実とフィクションのギャップに苛立ちを覚えていて、ご都合主義の話に対し「現実はそんな甘くねえぞチクショウ、現実ってのはもっとカッコ悪かったり、ショボかったり、間が悪かったり、思うようにいかなくて悲しくなっちゃうようなものなんだ!こんなんで現実逃避なんか出来るかガキだと思ってナメんな!」と思っていたんだな。・・・やっぱ「やなガキ」じゃん、俺。
さて、何故唐突にそんな話をしたかというと、この「ばかのハコ船」にはそういう現実の「カッコ悪かったり、ショボかったり、間が悪かったり思うようにいかなくて悲しくなっちゃう」要素がこれでもかとばかりにテンコ盛りだから。主人公はジコチュウでいい加減で計画性もないダメ男で、感情移入できるタイプではないので、多分万人ウケする作品ではないと思う。しかしこのダメ男が、やることなすこと全て裏目に出てドツボにはまっていく様は圧倒的に「リアル」で、誰しも思い当たる部分がある筈だ。こういうタイプの「リアリティー」は今まで、例えば文学やマンガなどの表現にはあったものの、映像表現ではまずなかった(特に90年代のトレンディードラマ等に於いてこの手のリアリティは巧みに隠蔽されていた。普通の会社員であるはずの登場人物がオシャレなマンションに住んでいても「どうやってこの部屋の家賃を払ってるんだ?」などと疑問に思った視聴者はほとんどいなかった筈だ)。
20代の山下監督は、前作のデビュー作「どんてん生活」でも同じようなテーマを扱っていたが、技術的にも洗練され、おそらく予算もアップしたであろう本作においてその資質をスポイルされるどころか、むしろますますシャープな切り口で「人間のリアル」を見せてくれている。最新作「リアリズムの宿」も楽しみだ。