2.《ネタバレ》 私は今年の8月に【火垂るの墓:1988年】【クォ・ヴァディス:1955年】と、立て続けに【死】がつきまとう作品の投稿をして、ちょっと気持ちが滅入っていたとき、ちょうど、当作品のレビューを拝読しました。
私はこれまで、当作品の存在を全く知らず「なんだ??この“東京キッド”や“銀座カンカン娘”のような昭和の香りがプンプンする題名は…」という興味からレビュー欄を開くと…投稿数は僅か5つでしたが、全て肯定的な文面ばかり!。↓の【はあさん】も「凡作」と結論付けているわりには、その前段でとても懇切丁寧な解説をして下さっており「これは是非、観てみたい」と決心。なんとかDVDを取り寄せて鑑賞しました。
率直な感想は、観て良かったです!。
まず、他のレビュアーさん達もおっしゃる通り、作り物ではない、まさに当時の本物の昭和30年代の街並みが見られるだけでも、歴史的な資料としての価値があると思います。
そして、こうした街並みを背景に【商売も気概も衰えて気弱になり始めた頑固親父さん】と【生きるエネルギーに満ち溢れたしっかり者の娘さん】を軸に繰り広げられる人間模様の数々…けっして、劇的にどうこうというわけではありませんが、登場人物が多いわりに展開がとてもわかりやすく、きちんとまとまっていく人情ドラマに感心、というより安心しました。
一つ一つの役者さん達の演技にも感じ入りました。
カメラを固定した中で紡ぎ出される会話の妙…脚本を活かす役者さんの達の演技があってこその味わい深さでしょう。映像表現やカメラワークで魅せるタイプの作品とは対極にある印象を受けました。
若尾文子さんは、私が物心ついた頃、すでに【落着いた物腰のご婦人】という印象が強かったので「こんな元気な娘さんを演じていたこともあったんだな~」と新鮮。でも、たとえ酔っぱらった演技をしても、品の良さを失わないのは、さすが名女優さん!といったところ。
また、何よりも鶴吉さんを演じた中村鴈治郎さんが素晴らしい。特に【まり子/みどり】という、娘ふたりへのそれぞれの愛おしさがにじみ出る演技に対し、私も“人の親”となり歳を重ねたせいか、妙に共感してしましました。
余談ですが、昭和31年当時は、私の両親も青春真っ盛り(若尾さん達より少し年下かな…)。まり子さんら若い登場人物達には「親父もお袋も、東京でなく地方育ちだったけど、こういう時代を歩んできたんだな…」、一方、鶴吉さんら年配の登場人物達には「お爺ちゃんやお婆ちゃん達も、お袋を嫁に出す・出さないでは、ご近所さん達が見合い話を次々に持ってきて、随分、葛藤したらしいしよな…」といった個人的な思いも重ね合わせたぶん、味わい深さが倍増しました。
それにしても、若尾文子さんら役者さん達は勿論、田中監督を始めとする作り手の皆さん達も、現在、まさか、このようなレトロ感覚の眼差しで鑑賞されるとは考えもしなかったでしょう。でも、根底に流れる【親子の情愛】【昔は良かったと振り返る世代/新しく時代を謳歌する世代】【人と人とのつながり】といったテーマは普遍だと思います。なお、テレビドラマの世界だって、例えば、TBSの【日曜劇場】も、現在のような【劇的な展開を売りにした連続ドラマ系】になる以前(平成5(1993)年3月まで)は、こういった【一話完結のほのぼのとした人情ドラマ】を、ときどき放送していたように思います。【作品の多様性】という意味で、再び、こうした人情ドラマが復活しないものだろうか…といったことも思ったりしました。
いずれにせよ、当サイトが無ければ、私は永遠にこの作品に出合うことは無かったでしょう。ありがとうシネマレビュー!
さて、採点ですが…私も、いわゆる【不朽の名作】というよりは【佳作】という位置づけの作品だと思います。でも今回の鑑賞で、ささやかながら、生きる力が湧いてきました。私はかつて、同時期の作品である【日活版の青い山脈:1963年】に8点を献上したことがあります。同じように、大甘とは思いますが8点を献上させていただきます。