3.《ネタバレ》 飛行機にて鑑賞。人が何かに心から期待し、一方で絶望するかもしれないという恐怖を同時に覚悟するその瞬間、どういう顔をするのかということをはじめて見せつけられた。
昔から大好きな小説に、新田次郎の『風の中の瞳』(1958年、東都書房→1976年、講談社文庫)というジュニア向け小説があって、その中で引っ込み思案の女の子が思いを寄せる男子からの言葉を待つ瞬間が、こんな風に描かれているんだよね。
「「それに、澄田さんは僕にとって……」
日野はことばを切った。それ以上のことはいってはならない気がした。いえば、千穂にけいべつされそうな気がした。しかし、日野敏夫のちゅうちょを千穂は許さなかった。彼女は、全身の期待を、その黒い二つのひとみにこめて、日野の言葉の先を要求した。……彼女の目には力があった。いわせないではおかない強さがあった。この一瞬を逃したら、永久に孤独で、化石した女になるかもしれないという彼女の恐怖が、千穂を勇敢にさせていた。」
そんな瞬間を、これを読んだ時にもそのあとにも、自分自身は経験したことがないので、希望と絶望を同時に覚悟する瞬間の顔って、いったいどんな顔なのだろうとずっと思っていたのだが、30年目にしてこの映画にその答えを見つけたのだった。
「You the only man that's ever touched me.」と言ったあとのシャロンの顔。長い間、その瞬間を迎えるためだけに生きてきた、そしてそのあとのことはすべて覚悟したうえで何かを求める人間の顔。自分にとってはそれを見るための映画になった。