1.《ネタバレ》 1995年、停戦直後のボスニア。まだ紛争の傷跡が生々しく残るこの地で「国境なき水と衛生監視団」の一員として活動しているマンブルゥは、ある困難な事態に直面していた。小さな村の唯一の水源である井戸に誰かが人間の死体を投げ入れたのだ。かなり腐乱したその死体はこのままでは井戸の水を腐らせ、村の生活を立ちいかなくさせるのは明白だった。車とロープでひとまず死体を引き上げようとするマンブルゥだったが、かなり大柄なその死体は重く、引き上げる直前にロープが切れてしまう。再び井戸の底へと落ちてしまう死体。あいにく予備のロープは持ち合わせていない。彼は仕方なく仲間とともにロープを求めて車を走らせるのだが、様々な事情が重なり一向に手に入れることが出来ない。そんな彼の道中に、サッカーボールを探してくれるならロープの場所を教えるという子供や国連職員でマンブルゥの元カノが加わり、事態はさらに複雑に。果たして彼は無事にロープを手に入れ、井戸から死体を引き上げることが出来るのか?危険な紛争地域で住民の水を守る活動を続けているNGO職員たちのそんなとある一日を描いたヒューマン・ドラマ。町の水道屋さんならぬ、〝戦場の水道屋さん〟の悪戦苦闘を描いた本作、水を巡る物語なのに映像もストーリーも全体の空気感も何処までもドライで乾いているのがいいですね~。紛争地の実態を描いているのですが、極端な残酷描写も派手な戦闘シーンもなく、あくまでも地味でリアル。でも、全体的に乾いたユーモアがあり、ストーリーテリングの手際よさもあって、最後まで惹き込まれて観ることが出来ました。一本のロープを手に入れるというだけのお話なのに、ここまで面白く描けるのは才能だと思います。登場人物もみな個性豊か。経験も長く機転も利くのに女には弱い主人公を演じたベニチオ・デル・トロ、長年の過酷な生活からかどこかイカレてしまったティム・ロビンス、こんな時なのに元彼への不平不満が止まらないオルガ・キュリレンコなど、誰もがいい味出しています。最後、ようやくロープを手に入れ死体を引き上げようとした瞬間に訪れる理不尽な展開などは、戦場の不条理を見事に突いている。ラストに振りだす大雨はどことなく希望を感じさせて(主人公たちにとっては悲劇だけど!笑)、爽快感抜群。同じようにボスニア紛争を描いた『ノーマンズ・ランド』を髣髴とさせる、戦争ドラマの秀作でありました。