2.《ネタバレ》 念願かなっての鑑賞で、シネマヴェーラ渋谷にて鑑賞した。
恩給で生活している社会の一線を退いた老人が主人公で、生活の頼みの綱であるその恩給が、不景気にともなって減少し、老人達の生活を逼迫していくという、現代日本においては実に現実感のあるお話である。
その老人は、ブチ模様をした小さな犬を飼っている。
妻も死に、孤独を癒す唯一のパートナーだ。
居を構えていた古アパートは、次第に売春宿と化していき、昔から住んでいたというのに、その老人は追い出しの圧力を受けている。
僅かな額の恩給では、アパートを出たとしても生きていくアテもない。
経済的に窮地に追い込まれた老人には、もはや生きる希望も失い、死を考えはじめる。
そこで唯一の心残りは、愛犬のブチ犬で、自分の亡き後に面倒をみてくれる場所を探したりもするが、全くアテがみつからない。
そこで、老人はブチ犬と無理心中を思いつく。
犬は当然嫌がり、怖がる。
寸での所で死を免れた老人とブチ犬であったが、犬の方は飼い主に恐れをなし、かつてのようになつかなくなってしまう。
必死に、ブチ犬の興味をひこうとする老人。
最後には、ブチ犬は老人にシッポを振ってついていき、その二人(?)の後ろ姿で「FINE」の文字。
いやぁ、なんて心温まるラストシーンだろう。
犬好きにはたまらないラストだ。
いったん飼い主である老人を避けるが、今までのご恩を思い出したんだろうか、また老人になつくまでの過程を描いたラストは、名作に相応しい出来栄えである。
ヴィットリオ・デ・シーカと言えば、『自転車泥棒』と『靴みがき』辺りが代表作かもしれないが、本作こそ、デ・シーカの最高傑作に推したい。
イタリアン・ネオ・レアリズモの名手として、現実の厳しさをうったえつつ、そこに人間と飼い犬(伴侶や家族に当てはめて考えてもよい)との絆を描いてみせた本作は、バランスもよく、まさに名作に値する。