1.この一作でケン・ローチに活目した。金曜ロードショウが映画の源だった自分にとっては、危ない時には誰かが助けに来て、運命を分ける選択があれば正しい方に動くのが映画らしさだと思っていた。当然ながらそこには人間臭さはない。しかし、ケン・ローチ映画からは嫌というほど臭う。世知辛い世の中を忘れるためにエンターテインメント映画を見るのはいい。しかし時には世の中に対して余計なおせっかいをかけたいことがある。「戦争反対!」とか「麻薬撲滅!」とか「少年犯罪云々」といったように。そんな時こそケン・ローチの映画は刺激的な薬になるに違いない。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のような自分からは遠すぎる悲劇と違い、限りなく近くに悲劇を持ってくる。そうなると「戦争反対!」とか「麻薬撲滅!」といった話では解決できない複雑な社会構造が見えてくる。この視点をひたすら冷静に、時に冷徹になってカメラを向けてくるのがケン・ローチだ。