1.《ネタバレ》 エイゼンシュテインの映画は、最初退屈な掘り下げから始まる。
ただ、そのじっくりと描かれる掘り下げが後の大爆発へと繋がるのだ。
ロシア革命と虐殺の爆発を描いた「ストライキ」や「戦艦ポチョムキン」、一人の暴君の後悔と絶望を描いた「イワン雷帝」等々。
この「全線」もそんな農民映画だ。
最初1時間は農民たちが泥と汗にまみれる光景を延々と捉える。特に牛を燻製にしていく工程は結構エグい。
ただ、1時間もする内にそこに退屈さは無くなっている。
華やかな少女たちの笑顔と共に。
農民たちはより大きな収穫、より人間として自立するために改革を求めていた。
無知と貧窮に溢れた農村から解放されるため、何より肉体を酷使する農業を少しでも楽にするため。
年老いた農婦マルファは立ち上がる。
半ば諦めの入っていた農民仲間たちは「そんなもんは無理だよ」と嘲笑う。
それでもマルファは止まらない。
協同組合を組むが、旱魃の容赦のない渇きが人々を襲う。神に祈っているだけでは何も解決しない。
自ら機械のトラクターや牛乳分離器など、文明社会の利器を取り入れる。
エイゼンシュテインは今までロシア社会の荒波に揉まれる人々を、文明社会が生み出した機会を通して描いてきた。
「ストライキ」における生産工場、
「戦艦ポチョムキン」における砲艦。
作品では機械のトラクターや牛乳分離器を通して、人々の生き様に変革を起こしていく。
それは同時に人々の運命を大きく左右していく。
「機械の牛」は手に入るが、今まで家族同然に暮らしてきた牛たちとの別れ。
しかし、最早どんな死をもっても農民たちの団結を崩す事は出来ない。
大地を揺らすトラクターの群れ、群れ、群れ!最新の機械をボロボロの布切れが動かす時の感動。
大地に「全線」が引かれる時のダイナミズム!
ただそれだけなのに、こんなに面白いなんて。傑作だ。