5.《ネタバレ》 ダウンタウンの松本人志が監督・主演を担当。基本はコメディだが、そこはやはり一筋縄では行かない奇妙な世界観と仕掛けを内包した作品。
松本の考え方の基本には、「まず常識を疑う」という発想がある。もちろん、何らかの創作活動に関わる人間にとって、その発想法はまさに基本だが、いわゆる「芸術家」とは違い、「芸人」として笑いという娯楽に携わっている以上、あまり一般的な常識から逸脱してしまっては観客の共感を得られず、笑いが成立しなくなってしまうというジレンマがある。常識的ではダメだし、かと言って芸術作品のように世の理解を得られなくとも良いというわけにもいかない。笑いには常に常識と非常識のバランス取りが要求される。
常識を逸脱する事自体は簡単だが、娯楽作品としてのバランスを取るとなると難しく、常に自分の中に不動であるべき「常識の柱」を意識しておく必要がある。
そしてこの「頭頭」こそが、一般人に常識の柱を意識させるために作られた作品なのではないだろうか。
上映時間の大半を使い、見ている者の意識に「頭頭」という「非常識」を日常のレベルに落とし込み、最終的に非常識を常識にまた反転させることで、「常識と非常識の相対化」を成し遂げているのだ。
つまりラストシーンおいて、見ている者に対して、「え、なんで頭頭が入ってるのに怒るの?」と言わせてしまう「常識の逆転」、言い換えれば強制的に「認知の揺らぎ」を起こさせる事こそが狙いなのだ。これは絵画や写真のように、見る者の解釈に任せるしかないタイプの芸術作品ではまず不可能な手法と言える。
まさに常識と非常識、日常と非日常、笑いと狂気は紙一重ということを認識させられる作品。