1.Wikipedia の受け売りですが、『チキチキマシン猛レース』はアメリカではそれほどヒットせず、忘れられた作品なんだそうです。ハンナ&バーバラ作品では意外にも『スクービー・ドゥ』が一番人気なんだとか。いやそもそもアメリカで「レーシング・アニメ」と言えば『マッハGoGoGo』だそうですから…広川太一郎と野沢那智は世界のアニメ文化を捻じ曲げてしまったのかも(笑)。
で、原作者ジョゼフ・バーバラが関与する最後の作品となった本作なんですが、『トムとジェリー』の衣を借りて、『チキチキマシン猛レース』を語り直したという異色作。しかもノスタルジックな語り直しではなく、猛烈にスパイスを効かせて辛さ×20倍です。
作品が違うからキャラも流用してないとはいえ、ミルクちゃんはオバチャンになってるし、キザトトくんは嫌味なマッチョ男。ヒュードロ・クーペもファンタジーブームの煽りを受けてトレカ販売業を営んでおります。
そして重要な点は、本作はレーサーが一人づつ脱落する形式だということ。全員揃ってラストスパート…なんてお約束のノンキな展開ではありません。一人づつ事故って死んで行きます(まあカトゥーンだから悲惨な死に方じゃないですが)。
以下は、本作を楽しむために必要と思われるウンチク。
ハンナとバーバラは1940年代にMGMで『トムとジェリー』をヒットさせたアニメーター…ってだけじゃなしに、『トムとジェリー』の量産体制が整った段階でMGMを出奔、画のタッチを全く変えて『宇宙怪人ゴースト』やら『スカイキッドブラック魔王』やら『スーパースリー』やら、TVを土台に無敵の快進撃を開始します。やがて原点である『トムとジェリー』の権利も買い取って、TVシリーズ化する…と。
自分たちの作りたいものを作れていたMGM映画時代から、視聴率によって左右されるTVアニメへ。そして、うっかり人気が出ちゃった事による、終わりなき地獄…まさに本作のトムたちが進む道ですナ。
この作品が、最初からセルビデオ用アニメとして製作された事、当事者の最後の作品である事を考え合わせると、視聴者を楽しませる事だけに徹してきた職人アニメーターのハリウッドTV業界への本音が(辛~いスパイスと共に)大きく浮かび上がって来る作品。
オイラが知る限り、明確なメッセージを持ったハンナ&バーバラ唯一のスラップスティック・アニメです。