57.《ネタバレ》 ニヤニヤとはできるが、自分も含めて観客の中で大笑いしていた者はいなかった。
コメディ映画にも関わらず劇場が静まり返っていたのは印象的だ。
本作はストレートで分かりやすい笑いで構成されているのではなくて、基本的にはマニアックな笑いで構成されている。
パロディの元ネタが分からなければ、そもそも笑えなく、ハリウッド風刺に対しても、その知識がなければ、笑えない。
日本人には合わないような笑いがメインではないか。
瞬殺された監督の死体をいたぶるシーンなどは、むしろ分かりやすい方であり、日本人にも理解できる笑いだ。
本作に描かれた“笑い”がアメリカ人の笑いのツボだとすれば、アメリカと日本はユーモアの質はかなり異なるといえるだろう。
しかし、ベン・スティラーはアメリカ的な笑いとも異なる“笑い”を描こうとしたように個人的には思う。
単純な笑いを追求するのではなくて、コメディ映画という枠を取っ払って、リミッター限界の際どい世界をベン・スティラーは描こうとしたのではないか。
ベン・スティラーの世界観に対して、理解も共感もできないが、個人的にはそれほど嫌いな作品ではなかった。
マジメなプロ選手の試合ばかり見ていると飽きてくるものだ。
こういうプロ選手による暴投や乱闘だらけの見たことのないメチャクチャな試合を見るのも面白い。アマチュア選手による暴投や乱闘だらけのメチャクチャな試合ではない点がポイントだ。
プロフェッショナルがどこまでバカになり切れるのか、どこまで限界まで到達できるかを競っていたように思われた。
トム・クルーズの存在が本作にとっては大いなるプラスに作用している。
ベンやロバートの暴走をトムがなんとか引き締めているようにも感じられた。
本作に描かれた例えを引用すると、ベン・スティラーやロバート・ダウニーJr.は「アイ・アム・サム」のショーン・ペンであり、トム・クルーズは「フォレスト・ガンプ」のトム・ハンクスであるような気がした。
ベンのように本物のバカになりきるのではなくて、本物のバカを演じているのはトムだ。
トムがベンとは異なるタッチで演じたために、本作のマニアックさがやや和らいだような気がする。
ベンやロバートの暴走に対して、ジャック・ブラックの影が薄かったのも印象的だ。
スローモーションでケツを痛がるシーン以外に見所なし。
彼にも付いていけない世界だったのかもしれない。