55.《ネタバレ》 アギレラの魅力は存分に発揮されており、彼女のファンならば十分に楽しめるだろう。
歌とダンスに主眼が置かれており、それを堪能する目的は果たせるはずだ。
アギレラだけではなくて、アカデミー賞女優のシェールがさすがの貫禄をみせており、彼女の出演が本作には欠かすことができないものとなっている。
悪役を含めても比較的善意あるキャラクターが多く、重苦しさやドロドロしたものなどは存在しない。
アギレラの魅力を最大限に伝えるために、アイドル映画のようなアプローチ自体は間違いではないと思うが、これが正解だとも思えない仕上りにはなっている。
この映画に関してはストーリーを気にする必要がなく、ストーリーに文句を付けるのはお門違いということは十分分かっているが、いくらなんでも浅すぎはしないか。
身内もおらず天涯孤独の身であり、苦労を重ねてきたという設定ではあるが、本作では能天気で苦労知らずのわがままな女性とも映ってしまった。
なんらの挫折も苦悩もなく、好意を寄せる二人の男性を手玉に取った小悪魔的な存在ともいえる。
本作に決定的に欠けていることは“挫折”だろう。
とんとん拍子で成功していくだけでは“深み”がない。
“夢”には成功と挫折が付き物ではないか。
田舎から出てきた娘が大した苦労も苦悩もなく夢と男をゲットする、そのような映画に深みがあるはずはない。
夢を掴むために、苦悩を乗り越えるパワーをもっと感じたかったところ。
ストーリーが十分なものではないと、せっかくの歌のシーンも単なるミュージックビデオのようなものにもなってしまう。
ストーリーや自己の心情などと掛け合わすことによって、足し算ではなくて掛け算的な効果が生じるが、本作にはあまりそのような効果はなかった気がする。
シェールの貫禄を除けば、ぞくぞくする様な感覚にはなれなかった。
また、窮地を救った最後のオチはちょっと意外なものであり、アレはアレでも面白いが、プロフェッショナルならば、自分の技能で師匠に“恩返し”するべきではないか。
歌やダンスに主眼が置かれた作品なのに、最後はそれとは関係のない方法で物事を解決してしまうというのは、いかがなものか。
師匠から何かを学び、その師匠を超えていくような“ミラクル”を起こしてこそ、映画の醍醐味といえる。
他のミュージカル作品に比べると、やや物足りなさを覚えたので、評価は低めとしたい。