16.映画『かくも長き不在』に関しては生まれて来る前の作品ですが、
修行不足の方々に対して少しでもお役に立てればと思います。
便宜上、この物語は序章プラス4つの重要な場面で構成されているものとし、
主演の二人(テレーズと浮浪者の男)の位置関係を中心に説明すると判りやすいんじゃないでしょうか。
まず序章。オープニングでは小説を読んでいる時に誰もが思い浮かべるイメージを印象的な映像として映し出す。
それはあたかも絵画や写真を観ているようで、これから始まる物語に否が応でも期待してしまうし、決してその期待を裏切らない。
①彼女はカフェの女主人として働き、接客姿勢は少々ぶっきらぼうで男勝りな印象を受けるし、また、
恋人がいることから、戻ってこない夫を待つだけの女ではない自立した女性を表現しているようである
が、どことなく陰のある暗い表情を浮かべているような気がする。
そんな折りに、ナント、長い間戻ってこない夫にソックリな浮浪者の男が目の前に現れる。
彼女の記憶の片隅にある、忘れようにも忘れられないどうしても引っかかっていることを解決してくれそうな出来事だ。ここから忘れかけていた時間を取り戻そうと
彼女は変化していきます。
ここでの二人の位置関係は手が届きそうで届かない距離にある。
そこで彼を店に連れて来ようと試みるが、男勝りな性格は鳴りをひそめ、
第三者を介して行い自分は店の裏に隠れているといった姿はあたかも思春期の
恋する女性のようである。
②一緒に食事するシーン。「チーズ好きでしょ?」過去の記憶が走馬灯のように駆け廻る。
もう彼は手を伸ばせば届く距離にいる。
夫に違いない。でも、様々な感情が入り乱れる。
③一緒にダンスするシーン。
とうとう彼に手が届いてしまった。ふと彼の後頭部に手をやると大きな傷がある。
これは彼が記憶を失ったんじゃなくて、ナチスによってロボトミー手術を施されたと僕は勝手に解釈します。
この時、彼にもたれかかり哀しい表情を浮かべる彼女にはどうしても心が打たれてしまう。
彼女にとって、もはや夫でも夫じゃなくてもどちらでも構わないんでしょう。いや、話の流れ上、夫であって欲しいと思います。
④ラストでホールドアップする男。
戦争シーンなんてなんにも無いにも関わらず、戦争の悲惨さはひしひしと伝わってくる。
反戦映画・恋愛映画・ドラマとして胸を張ってオススメします。