6.“音楽犯罪映画”というアイデアは間違いなく新しく、映画ならではの娯楽性を秘めていると思う。
一方通行な芸術の過剰な追求は、時に“テロ”にすらなり得るというアプローチは、「音楽」という芸術の奥深さを表すと同時に、それに傾倒する人間、それに振り回される人間、両者を含めた社会や文化の滑稽さを導き出していた。
スウェーデンから届いたこの映画的な“新しさ”だけで、一定の評価はされるべき作品だとは思う。
ただし、その一方で登場人物たちの人物像が希薄だとも思えた。
主人公である敏腕刑事のキャラクターは立っていたと思う。
一流の音楽家系に生まれながら、生来の音痴、更には音楽を聴くと気分が悪くなるという体質を持つというキャラクターは、この題材の映画の相応しいユニークさを持っており、そんな彼が奇想天外な音楽犯罪に対峙するとうい構図は、映画的にも巧かったと思える。
しかし、その主人公以上に重要な“音楽犯罪一味”の描写が思ったよりも深まらなかった。
特にリーダー格で、映画におけるヒロインとも言えるキャラクターに今ひとつ深みが無い。
彼女が何故にこのような“音楽テロ”を巻き起こすのか、その発端となる動機が曖昧だったと思う。
「芸術の追求」と言ってしまえばそれまでだが、彼女の行為そのものが映画の主軸である以上、その理由は明確になるべきだったろうし、そんな彼女がラストの顛末を受け入れていく様もなんだか腑に落ちない。
題材が奇抜で面白いだけに、ストーリーテリングの薄さによって、それがただの“パフォーマンス”で終始してしまっているのは勿体ないと思う。