12.《ネタバレ》 星の王子さまって聖書のつぎに発行部数が多い本でしたっけ。
読んだことがなくともタイトルは世界中の人が知っているのではないだろうか。
それほどの名作中の名作と呼ばれる児童書を映画化しようというのは非常にリスクが大きいし
作り手側も緊張したのではないかと思われる。自分が映画監督で作れと言われたら絶対大火傷すること必須なのでイヤだ(笑)
私は原作を読んで滂沱したクチなのでこの作品については公正なレビューは出来ない。
好きか嫌いかで語らせてもらうが一言「好き」だ。
星の王子さまの世界観を損なうどころかよい意味でイメージを膨らませてくれていた。
この作品は原作を知らずともどういう物語なのか老人と少女の交流の中で丁寧に紐解いてくれる。
シングルマザーの母親と娘である主人公の「少女」の間に特別な確執はなく
どこにでもいる『子供に非凡な将来を求める』平凡…よりやや過度な親子像。
密接な親子関係の中で母親の意見が世界の全てだった少女は老人との出会いで星の王子さまの存在を知る。
星の王子さまと出会い別れそしてその後どうなったか?
私自身、大人になってから原作を読んだので大人にありがちな「都合のいい」「自分の心が痛まない」
甘い優しい理想の結末を考えてオチをつけて飲み込んでいた。
いわゆる「そして(多分)王子さまは星に戻り薔薇といつまでも幸せに暮らしましたとさ」である。
しかし子供である少女には老人の説明に納得がいかない。
もし私が子供の頃に原作を読んでいたら少女と同じように
納得がいかず憤慨し「こんな哀しい物語、読まなければよかった」と後悔したかもしれない。
少女が探しにいったその後の星の王子さまは、大人が押し付ける欺瞞の優しい世界ではなく
現実に将来の自分に起こりえるかもしれない夢も希望もない暗い世界だった。
ここのオリジナル箇所は正直 原作をこよなく愛する人には受け入れられないかもしれない。
しかしそこから大事なものを思い出し少女もキツネや王子さまのいう「目には見えないもの」の意味を悟る。
私は少女が乗り越えていく『大事なものを知る』過程としては必要な箇所だったように思う。
直接的な表現は使わないものの『死別』のメタファーがついて回るのは原作も本作も変わらない。
それでも人はそうした別れを経験しても「目に見えない大事なもの」を心にしっかりつかんで生きていく。
最初から最後まで柔らかい哀しみと愛しさとあたたかさに包まれた宝物のような映画だった。