1.《ネタバレ》 真夜中を少し過ぎたばかりのベルリン。クラブで夜通し踊り続けてきた若い女性が家路を急いでいる。街の小さなカフェで働く彼女の名はヴィクトリア。まだスペインから越してきたばかりでドイツ語も分からない。そんな彼女に、会ったこともない4人の青年が声をかけてくる。見るからにガラの悪い不良たちだったが、異国の地で孤独に喘いでいたヴィクトリアは彼らと思わず意気投合するのだった。特に、リーダー格の青年ゾンネにヴィクトリアは強く惹かれていく。夜も更けたころ、ヴィクトリアは彼からあるお願いをされる。それは明らかに犯罪がらみだったが、ゾンネの為に彼女は思わず首を縦に振ってしまう。その選択が自らの運命を大きく変えてしまうことも知らずに――。孤独な女の子が経験する破滅的な一夜の冒険を、2時間20分全編ワンカットという画期的な手法で描いたクライム・サスペンス。ストーリー自体は極めてオーソドックスなものなのなのだが、やはり特筆すべきなのはその驚くべき撮影スタイルだろう。映画が始まってからエンドロールを迎えるまでの2時間強、本当に編集ナシのワンカットでひたすら続いてゆくのだ。例えばこれがCGでそう見えるように処理しているだとか、雰囲気のみのアートな感じでお茶を濁しているだとかならさして珍しくもない。だが本作がそれら凡作と一線を画しているのはちゃんと因果律のあるドラマがそこに成立しているからだ。ちゃんと考えられたストーリーがあり、それに応じて舞台も路上からビルの屋上、銀行にクラブ、多くの住民が暮らす公営住宅と目まぐるしく移ってゆく。登場するキャラクターも多岐にわたり、それぞれに個性が割り振られている。これは驚異的と言うほかない。よく途中で破綻しなかったものだ。最後の方のシーンを撮っている時など、監督も役者もスタッフもドキドキしっ放しだっただろう。ただ、肝心の内容の方なのだが、ワンカットに拘るあまりところどころに明らかな無理が生じてしまっているのが残念だった。特に主人公ヴィクトリアがいとも簡単に犯罪行為に手を染めてしまうばかりか、不良たちのボス・ゾンネにあそこまで付き従うのはさすがに説得力に欠ける。ここら辺をもう少し何とかしてほしかった。とはいえ、到底不可能と思われた手法に果敢に挑み、それを見事に成しえたこの監督の手腕は大したものだ。