1.《ネタバレ》 太平洋戦争で多くの海戦に参加しながら大きな損傷もなく、最後まで生き延びた「幸運艦」である駆逐艦雪風を扱っている。最近の映像化では「ゴジラ-1.0」(2023)の終盤で、作戦を指揮した人々が乗っていたのが雪風だった。
艦船や海戦の場面は実写・記録映像・特撮で表現しているが、特徴的なのは当時の海上自衛隊の護衛艦「ゆきかぜ」DD-102が、そのまま駆逐艦雪風役で出演していることである。艦形や兵装は当然違うが全体的な印象としてはあまり違和感がなく、何より2代目の本物が出ているのだから多少変でも大目に見ようという気にさせられる。
ちなみに軍港の場面は実際に「ゆきかぜ」が所属していた横須賀の長浦港のようで、当時あった他の艦艇の姿も見えていた(砲艦役の特務艇「おきちどり」、第1駆潜隊の4隻など)。
基本的には笑って泣かせる娯楽映画であり、あまり本気の戦争映画として見ない方がいいようだった。主人公は烹炊所の主計兵であって勤務の厳しさも表に出ず、そもそも幸運艦なのであまり悲惨な場面もないわけだが、全体の2/3くらいから死人が出始める。
主人公の変な雪風愛には特に共感できないが、映像面でいえば航走中の「ゆきかぜ」が美しく見える場面があってほれぼれさせられた。艦長の妹は「雪風より美人」と言われていたが、人と船を直接比較できないにしても確かにこの映画の「ゆきかぜ」は、20代前半の岩下志麻に劣らない美形といっても変でない。清楚ともいえるが少し凄味がある。
終幕は若干意味不明瞭だったが、例えば去っていく雪風の姿に艦長の妹の面影を重ねていた、というオチだと勝手に思っておく。ここで艦長も笑って見送ってやろうと言っていたので、主人公も素直にその気になったものと思われる。
全体的に演技・演出の面で変なところもあったりしたが、登場人物にはそれほど悪人もおらず、細かいことにこだわらなければ普通に楽しく見ていられる映画だった。
その他雑記として、敵の幸運艦として有名な空母エンタープライズは、その名前が後世の原子力空母や恒星間宇宙船(スタートレック)、スペースシャトル実験機に受け継がれたが、雪風の名前は護衛艦「ゆきかぜ」のほか、地球防衛軍の宇宙駆逐艦(宇宙戦艦ヤマト)その他に採用されている。ラストで雪風の名は永久に消えないと技術士官が言っていたが、少なくとも現時点ではちゃんと記憶されている。
※追記:今回これを見たあとで発表があったが(12/10)、2025年には新作映画「雪風 YUKIKAZE」が公開されるとのことだった。プロモーションに加担してしまった感じだが一応期待しておく。がんばれ雪風。