1.《ネタバレ》 東京は有楽町(銀座)、「有楽町朝日ホール」にて鑑賞。
これって、一見すると分かりにくい作品のように思えて、実は主張がハッキリしていて、いたってシンプル。
それでいて、観る者の心を鷲づかみにする魅力を持った作品である。
ジャン=ピエール・メルヴィルといえば、フィルム・ノワールを撮る監督の代名詞的な存在であるが、本作はフィルム・ノワールではない。
ナチス・ドイツを題材にした、戦争心理劇である。
前半から中盤にかけて、主人公のいかにもドイツ人といった感じの不気味な将校がとにかくしゃべりまくる。
これが凄い。
室内でずっと一人でしゃべっている。
でも独り言ではない。
ちゃんと相手がいるのだ。
しかも二人も。
その二人はフランス人の父娘なのだが、ナチス将校の話を全て無視する。
フランス人からすれば、ナチスは敵なわけで、とにかく無視を続けるのだ。
そのナチス将校は、フランス人父娘が住む家に寝泊りを続けるのだが、とにかく精神的な孤独を強いられる。
しかし、ナチス将校はじっと我慢し、暴れたりもしない。
ひたすら一人で話しまくり、フランス人父娘の心に訴えかけるのだ。
そして最後には、敵であるはずの冷たい二人の父娘の心を開いてしまう。
これに至るまでの経過が面白く、無言の中にも、父娘の微妙な心理変化が読んでとれる。
最初は頑なに心を閉ざす相手がいたとしても、長期間かけて真心を伝えていけば、いつか相手は心を開いてくれる。
そんなメッセージが伝わってきた。
メルヴィル作品らしい地味な作品だが、ラストに娘が口をきいた時の衝撃度はかなり高く、心を打たれる素晴らしいラストであった。