3.《ネタバレ》 製作後10年近く経てから鑑賞したこともあり、些か時代背景は変化してはいるものの、ここに語られるある種の「恋」は永遠普遍のモノと言えないこともないかと。それが証拠に、エンディングに登場する類の事件は後を絶たない訳で、積み上げられた条件がカチッと嵌まってしまうと逃れられない心情になり得るのでしょう。勿論全く肯定はしませんが。
本作の場合は、本人の責任が全くないことはないまでも、良恵の置かれた境遇は日々彼女を追い立て続け、いつの間にやら素直に自分らしく生きる術を見失ってしまった訳ですね。それが最愛の母の死、それもジワリジワリと迫って来た末の死、という衝撃が引き金となって一気にタガが外れてしまったということでしょう。そして、外れること自体は彼女にとって即ち悪ということでもないのに、偶さかそこに中国人青年がいたものだからあらぬ方向になびいてしまった。それは不幸です。彼女だって気付いていただろうに抗えなかった。
中国人青年の方も、細かな背景が説明されていないので俄かに批判は出来ないものの、止むに止まれぬ事情で追い詰められた上で結果的に最近で言うところのロマンス詐欺、昔ながらの結婚詐欺を働いてしまった。
良恵が一方的に中国人青年に騙された訳でもなく、勿論中国人青年が良恵にイイ様に扱われた訳でもない。自然にどちらからということもなく惹かれて行ったと言って良い様に思えます。これ即ち「恋」なのでしょう。殺したいほどの「恋」が芽生えてしまったのですね。
姉に言い寄った男が偶然にも妹の裏バイトの客だったなどという狭すぎる世界には少々引いてしまいましたが、どうにも地味で魅力のない良恵が、「恋」によって彼の前では可愛らしく変化していく様は非常に丁寧に描かれていて好感が持てました。オチは決して意表を突くようなものではありませんが、寧ろ決して珍しくないオチによって鑑賞後の印象は深まったように思えました。