3.《ネタバレ》 ノワールと言えばやはり「欲望」というとこで、
主立った三人の登場人物は皆、自分の欲望を満たすためだけに行動をする。
中年の銀行マンは騙されてはいるのだが、嘘を付いてでも手に入れたい愛という、
そんなどうでもいいようなものの前では、同情などは打ち消されてしまう。
誰に同情出来るでもない世界観。
この世界観はラングによる繊細な人物描写で成り立っている。
しかもそれは見せ方だ。
例えば、男が女を殴っているのを主人公が目撃してしまうショットの上手さよ。
この引き画の、引き具合の抜群さだ。
傍目から見れば明らかに襲われているという見せ方。
これはこの前段階で主人公が若い女とどうのこうのという件が活きているからこそだが、
主人公同様に、我々観客にも「そう見える」という演出の上手さだ。
ラングの上手さとは見せ方の上手さ、つまり物語ることの上手さだ。
そしてやはりこの映画はクライマックス語らずにはいられない。
ネオンの明滅、決して消えない幻聴。
観客は視覚と聴覚を刺激され、まるで自分が主人公であるかの如き錯覚に陥るだろう。
そして現れるあの絵画の眼差し。
やられた。完全にやられた。
ここでこれを出してくるとは全く想像していなかった。
この瞬間に誰もが身震いするはずだ。もう蛇に睨まれた蛙だ。
ラストたった10分程だろうか、途轍もない緊張感と興奮に誘われる。
素晴らしい。