49.《ネタバレ》 フリッツ・ラングが当時のアメリカの摩天楼に衝撃を受け、妻のテア・フォン・ハルボウと共に熱狂しながら構想した「メトロポリス」。
公開当時は「近未来」、今ではゴシック調のSFファンタジー・サスペンスとしての面白さがある。
当時のドイツ美術の粋を結集した美しさ、自らも脚本を手掛けた「カリガリ博士」を思い出す怪しげなロートヴァングの研究所、機械工場の爆発と押し寄せる水、街に放置された車の山の不気味さ、そしてアンドロイドマリアの誘惑によって狂気の渦と化す人の恐怖。
1984年に熱狂的なファンだったジョルジオ・モロダーが尽力して本作が再び注目され、
2002年にマルティン・ケルパーが映像をデジタライズ、
2010年に行方不明だったフィルムが発見され「完全版」として蘇った。
ゴシック調の摩天楼が居並ぶ近未来的な都市。
冒頭から力強い機械の描写、労働者と富裕層が完全に分断された格差社会が拡がっている。
そう、本編の主軸は鮮烈な映像だけではない。
中世の貴族趣味に興じる富裕層、
近未来のはずの都市に「複葉機」が飛んでいる事自体、富裕層の道楽ぶりを表している。
近代的な都市を闊歩する富裕層の下で、自らの力で機械を動かす労働者たちが蠢いているのだ。
どんなに機械が発達しようと、それを作るのは人間だ。
手塚治虫が本作に影響を受けた事からも解るように、機械を創れるのは結局「人間」なのだ。
人がいなければ機械は目覚める事も無い。
当然、人間も機械ではない。
超過勤務や過重労働で肉体は疲れ、精根尽きるまで死ぬまで働かされる。
これでは「奴隷」と同じでは無いか。
だが、奴隷になりつつある労働者たちも黙ってはいない。
「頑張ればきっと神様が助けてくれる」と神を心の支えにして必死に生きているのだ。
労働者を励ます少女の「マリア」は、天使聖母マリアの如く人々の拠り所である。
様々な人物模様がメトロポリスをきしませていく。
壮麗な未来都市、
丁寧な作り込みの美術、
魅力的な登場人物、
起伏に富んだストーリーなどなど、我々を飽きさせない。