3.《ネタバレ》 原題も英題もクリスマス物語である。主人公の名前は一応聖ニコラオスから取ったようだが、話自体はキリスト教と関係ないので異教徒でも無宗教でも見られる。そもそもフィンランド語のクリスマスJouluもサンタクロースJoulupukkiもキリスト教とは関係のない言葉のようである。
時代としてははっきりしないが、豊かでもない庶民が懐中時計を持っているからにはそれほど大昔でもなく、もう19世紀に入った頃のことではないかと思った。電気はさすがに通じていなかったが、村の人口が増えたというのは前近代を脱したという表現のようでもあり、孤立的な昔話ではなく現代に直接つながる出来事と取れる。
撮影場所は、フィンランドでサンタクロースが住むとされているラップランド地方とのことで、なだらかな山容が特徴的に見える(実は見たことがなくはない)。季節の変化も印象的で、これが現地の風景だとほれぼれした。ほかに師匠と主人公が家具を売りに行った場面は南部の都会トゥルクの大聖堂で撮っている。
内容としては完全オリジナルのサンタクロース誕生秘話を極めて誠実に作っている。師匠と一緒にプレゼントを配ったとか、親友の娘が家を訪ねて来た場面は少し感動的だったが、ただ全般的に展開が駆け足すぎて、大河ドラマを一晩だけの総集編にしたようでもある。後半で突然ヒゲオヤジに化けたのも唐突な印象で、個人的には健気で賢明な少年と、親友や師匠とのやりとりをもっと見ていたかった気がした。
自分の志を世の父親連中に委ねて、本人は空から子どもを見守る存在に昇華したという結末(多分)は悪くないとしても、主人公自身が自分の家族を持つという選択はなかったかとはどうしても思ってしまう。主人公の心境は正直よくわからなかったが、家族と思った師匠も去ってしまって一人残された家で、妹代わりかと思った人物の忠告も聞かず、他人の子どもを自分の子のように思うしかない状態に自ら追い込んでいった面がなかったのか、と思うと少し寂しい結末だった。
その他の事項として、プレゼントをしておいて知らないふりをする主人公もそうだが、顔の怖さを前面に出す師匠とかツンデレ少女とかがシャイといわれる国民性の表現のようで面白かった。個人的にも以前に現地へ行った時に、不愛想で物も言わないが親切なフィンランド人というのが本当にいたのを思い出した。