1.《ネタバレ》 彼女は9年ごとにやって来る――。1988年、フィラデルフィア。その日、原因不明の謎の現象により何の関係もなさそうな3人の人間が命を落とす。被害者は皆、目や鼻から大量の血を流し、しかも脳が完全に溶けてしまっていた。彼らに共通するのは、首の後ろに付けられた三つの小さな傷跡。妊娠中の妻と暮らす刑事志望の警察官トーマスは、すぐさま現場へと向かう。容疑者として緊急手配されたのは、青いパーカーを着た黒人の若い女性。地下鉄の駅で犯人らしき人物を発見したトーマスは、激しい追跡劇の結果、逮捕寸前まで彼女を追い詰める。だが、彼女は「娘の誕生おめでとう。私はあなたを知っている」と言う謎の言葉を遺し、電車に撥ねられ即死してしまう――。1997年、無事に刑事となったトーマス。9年前の未解決事件など忘れ、不幸にも亡くなってしまった妻が遺してくれた9歳の一人娘とともに平凡ながらも充実した日々を過ごしていた。そんな折、信じられないようなことが起こる。なんと9年前と同じ手口の殺人がまた実行されたのだ。あろうことか、9年前に死んだ青いパーカーの女が以前とそっくり同じ姿で彼の前に現れるのだった…。果たして彼女の正体とは?9年ごとに現れる謎の女を巡って、何十年もの長きにわたって人生を翻弄されるある一人の男を描いたSFサスペンス。冒頭からかなりミステリアスな展開を見せるそんな本作、これがなかなかスタイリッシュなタイムワープSFの佳品に仕上がっておりました。主人公と謎の女が最初に出会った時、彼女は主人公が知りえない情報を告げ、命を落とします。その9年後にまたその謎の女が現れた時、その情報の謎がここで判明するのです。そう、彼女は未来から未知の目的を果たすために、9年ごとに過去へと遡っていることがここで明らかとなるのです。そして、2006年。すっかり身を持ち崩し警察も辞めてしまったトーマスはやはり彼女と再会します。お互いの未来に何が起こるのかを分かっている(でもその内容はお互い知らない)二人の息詰まるような駆け引き、これはなかなか見事なアイデアだと言っていいんじゃないでしょうか。例えるなら、クリストファー・ノーランと『12モンキーズ』の絶妙な融合。僕は最後まで興味深く観ることが出来ました。そして迎える2015年、すっかり落ちぶれ今やホームレスとなった主人公が辿り着く衝撃の真相。残念だったのは、この肝心の真相がいまいち腑に落ちなかったことですね。まあ分かるんですけど、もう少し納得できる説得力と言うものが欲しかった。それでもこのアイデアが秀逸であることは確かだし、それを最大限活用した演出も最後までキレが良くて大変グッド。なかなか見応えのあるタイム・パラドックス・ミステリーの秀作でありました。