1.ほとんどHelplessのような感じで(光石研も出てるし、ロケ地は北九州だし)、その意味では原点回帰ともいえる作品かもしれない。しかし最後にはかすかな希望も見える点が違うところで、崩壊や絶望で終わっているわけではない。私は原作を読んでから観たが、原作の雰囲気を余すところなく、ごまかすことなく表現しているように思った。特に川、ウナギの辺りの描写は非常に上手い。昭和後期という意外と見られない時代設定と、ああした家屋の感じは、小津や成瀬の時代とも、平成以降のマンションの時代とも違ったまた不思議な雰囲気を醸し出している(そしてラストの新解釈にもつながる)。画面両側に開け放たれたふすまの間に背の低いちゃぶ台があり、主人公が坐っている。カメラは妙に低い位置で、まるで「寝そべっている人の視点のようだ」と思うと、光石研が右側のふすまから滑り込んできて「寝そべる」。この計算しつくされた1ショットに鳥肌が立った。木下の髪を振り乱してきっと睨むシーンも忘れられないだろう。
そして原作を読んだからこそあの後半に驚愕するわけだが、一つの体系的なまとまった原作の解釈というものが出来ていたからこそあれが出来るわけである。そしてそれには妙に納得できるものがある。子供は父親を選べない。生まれてくる子供に罪はない。しかしだからこそ逆説的にこのような悲劇が起こるのであろう。ラストは生々しい光が見えるが、喜んでばかりもいられまい。映画は冒頭から主人公が大人になってからの回想の形で描かれるが、主人公の声をナレーションしているのは光石研ではあるまいか?(確証はないが…) 狂気と愛憎を文字通り孕んでいる。 (蛇足だが、田中裕子を任意同行する警官が岸辺一徳とは、明らかに「いつか読書する日」を意識しているのだろう、と思いにやにやしてしまう)