2.ウェス・アンダーソンの映画を観るのは「ライフ・アクアティック」「ファンタスティック Mr.FOX」に次いで三作目となる。ビギナーと言えるだろうが、それでも映画が始まってすぐに「ああ、ウェス・アンダーソンの映画だな」と認知させてしまうのは、この監督の稀有な作家性故だろう。
映画は全編に渡って、この監督らしいウェルメイドなコメディと、拘り抜かれた美意識に彩られていて、映し出される一つ一つの「画」を見ているだけでも楽しい。
タイトルから想像したイメージは、風変わりなホテル内での風変わりな人間模様が“グランドホテル形式”で描かれるのだろうと思っていた。
しかし、物語は想定外に加速し冒険活劇へと展開していく。
激動の時代背景を根底に敷き、或る人間の或る人間に対する思い出がつまびらかになっていく。
そうして辿り着いた結末は、この映画世界が醸し出す雰囲気からは想像もできないくらいに、重く、悲しい。
ただし、この映画に登場する人物たちは、必ずしも悲しみに暮れているわけではないと思えた。
人生は、総じて過酷で辛いもの。
それは悲劇ではなく、受け入れるべき運命であり、それらを礎にして“新しい世界”は構築される。
昨日の世界と明日の世界は常に変わりゆくもので、それの善し悪しをその日を生きている者は判別出来ないのだと思う。
そういう達観めいたものを、過ぎ去った世界のことを語る老いた“ベルボーイ”に感じた。