1.君主や国家に仕えた中村錦之助演じる飯倉家当主の残酷な歴史を、戦国時代から太平洋戦争、そして現代まで七つに区切りオムニバス形式で描いています。その中でも、3番目と4番目の物語りが強烈な印象を残しましたね。とくに4番目、非道を極めた藩主に仕える飯倉修蔵の被虐的忠義心にはただただ唖然。ただ一人残された幼子が「侍の命は侍の命ならず、主君の為ならば…」を繰り返し唱えるシーンにはゾッとさせられるものがある。忠義、忠義、そして腹切り。もし欧米人が見たならば、さぞや驚愕したことであろう。ところで、非道ぶりに逆上した家臣が君主を斬り捨てるというシーンがあるわけですが、当時、虎視眈々と狙うこのような侍がけっこういたのではないだろうか。それにしても本作は、島国である日本人の精神構造を執拗なまでに描写しており、名匠今井正のリアリズム手法には脱帽ものです。敗戦後日本は、基本的人権を根幹にした民主主義が当たりまえのように思われています。しかし私たちの祖父の時代までは、この非人間的な君主制・天皇制が延々と続いていたわけなんですよね。しかも何が一番凄いかといえば、昨今日本人の個人主義(否、自己中心主義というべきか)への変わり様、激変する精神構造. ベルリン映画祭金熊賞受賞も納得の、時代劇の傑作です。