1.17世紀のオランダのさり気ない日常を描きつづけた画家フェルメール。寡作家でその大半が室内画であり、また謎の多い人物だったことから、タイトルにもある少女をモデルにした絵が出来るまでを、人間ドラマとして大胆な仮説をもとに綴ったのが本作。作品を魅力的にしているのが、メイドとして雇われた美少女グリートを演じるS・ヨハンソン。 腫れぼったい唇の困惑顔で、いつもどこか不機嫌そうなその表情が男心をくすぐる。C・ファース演じるフェルメールも、彼女をあくまでも絵画の良き理解者という表向きの体裁を繕ってはいるが、彼女の魅力の虜になってしまっているのも事実。この危険な香りを放つ両者の拮抗した演技には魅了されてしまう。二人に果たして男女の関係があったかは、 映画ではついぞ描かれる事はなかったが、耳にピアスの穴を開けるシーンに暗喩としての匂いを嗅ぎとれる。グリートの苦悶の表情のその艶めかしさだけで十分であろう。真実は誰にも分からない事であり、後は個人個人が想いを巡らしてロマンを感じとればいいのである。そしてもう一つの魅力は、フェルメールたちが間違いなく生きていたこの時代を、なんの違和感をも感じさせることなく再現してみせた衣裳と美術そして撮影技術の進歩。湿り気のある空気や柔らかな光と渋めのトーンで統一された色彩処理など、その徹底ぶりには只ならぬものを感じさせ、この作品の雰囲気を余すことなく伝えることに成功している。