2.相変わらず優雅な、あまりにも優雅なフレッド・アステアの踊りと、『リリー』に続いて“孤児”を演じるレスリー・キャロン、うぶで、でもはつらつと舞うレスリー・キャロンのバレエとが、画面のなかでひとつになる時、ぼくたちは間違いなく「この世で最も高貴なもの」を目撃することになる。あの抽象画めいたシンプルなセット(思えば、20世紀フォックス社のミュージカル映画は、常にミュージカルナンバーのセットが奇妙に「モダン」で、それが面白かったり、物足りなくあったりするんだけど…)をふたりが踊る、舞う、ひとつになる。もう、それだけで、ぼくにとってこの映画は永遠です。傑作であるとか、駄作であるとか、もうそんなことを超越したところで、ぼくはこの映画を愛する。アステアとレスリー・キャロンの存在ゆえに、この先何度でも見て、陶然としたいと思う。…そりゃ、確かに2時間以上あるってのは長過ぎるかもしれない。ドラマ部分が、今や淡白すぎてタイクツする向きもあるだろう(けれど、ニューヨークのホテルのペントハウスにおける朝食のシーンなど、『プリティウーマン』に引用されていたことをぼくはうれしく思い出す)。しかし、ぼくが映画において本当に見たいのは、もはや作り手の才能や思惑を超えたところに、何かの間違いのように時として実現してしまう「奇蹟的瞬間」なんです。そして、この映画の場合(もちろん全編すべてに、とは言わないけれど…)ふたりの偉大なダンサーがそういった「奇蹟」をぼくたちに見せてくれる。当然の満点です。