1.女と不幸と足に執着するルイス・ブニュエルの作風の中でも、カトリーヌ・ドヌーブの美貌が異常なまでに輝きを見せる最高傑作。男性の従属物として養われることでしか生きて行けない古い時代の圧倒的な価値観の中で、あくまでも尊厳を保ち続ける一人の孤児の生涯。受動的でありながら精神的に隷属せず、自嘲的になりながらも自棄にはならない、孤高の美女トリスターナの姿に人は究極の女性の強さとしたたかさを見る。誇り高き貴族として社会から尊敬を集める紳士ロペは、養女トリスターナに対しても理想的な養父でありながら同時に彼女の美貌に翻弄される弱さをあわせ持ち、その老醜を嫌悪して一度は若き画家と駆け落ちしながらも片足を失うという無残な姿で戻って来た彼女に対し、地にひれ伏してその愛を乞うのである。権威の失墜、愛の呪縛に翻弄される老人、美醜と相反して力関係の逆転する支配者対被支配者の関係の中に、人間の感情の持つ様々な矛盾、執着が人間に負わせる従属の悲しさ、ひいては人間という存在そのものの惨めさを、美と富の密室で展開される男と女の「生活」というミニマムな環境に凝縮させて描き切り、なおかつ彼らに象徴される背後にあるものの存在の大きさを様々な比喩や余韻で雄弁に語らせることにも成功している。「女の一生」的な興味本位での見方でも充分楽しめる仕立てになっており、映像としての美しさ、ドヌーブの美貌の鑑賞的価値の高さも幅広い層に満足の行くものであると思われ、1から10まで幅広い尺度から楽しめる作品として、この時代のヨーロッパ映画の中では個人的に特に好きな作品でもある。