1.世界的にタランティーノ症候群が蔓延していた時期の作品だけあって、本作もモロにタランティーノの影響を受けています。延々と繰り広げられる本筋とは無関係な会話に、突発的な暴力。口数の多い主人公については現在のレフンの作風からすると意外に感じられたのですが、そんな主人公がどんどん追い込まれていき、後半になるとほぼ喋らなく様には、後のレフン作品の片鱗が垣間見えています。部屋にはブルース・リーとマッド・マックスのポスターが貼ってあり、少々手間のかかる彼女に対しても優しく接するという、子供っぽくも気の良い悪党だった主人公が、どんどん粗暴でイヤな奴になっていくという展開にもハリウッドとは一線を画すものがありました。「ピンチに陥った時に、本当に大切な愛を見つけた」なんてセンチな展開など皆無なのです。また、「レストランを開きたいなぁ」なんて笑顔で話していた用心棒が、次の場面ではとんでもない暴言と暴力を振るうという落差の付け方などは非常に効果的であり、本作はただの模倣に終わっていません。。。
ただし、クライムサスペンスに必要な、物語の求心力が不足していた点は気になりました。観客に対して主人公の一発逆転プランが提示され、そのプランがどう転ぶかでハラハラさせるのがこの手の映画の王道だと思うのですが、本作はそうした娯楽的な要素が著しく不足しています。ただただ焦る主人公の姿が映し出されるのみ。全体の空気は良いものの、「これは」という特別な場面に乏しく、少々間延びした映画に感じられました。