1.今まで慎重に避けてきた、とってもとってもおっかないノルシュテイン評。まあ最初は無難な(そうか?)あたりから…。
去年の『ナイトウォッチ』を皮切りに、太陽ソラリス罪罰カラ兄チャイコフスキー…ソ連・ロシア映画をけっこう観ました。で、美術さんの仕事ぶりが他の文化圏と違うのにビックリ。リトアニアの一分アニメも観たんですが、これすら美術がロシアっていた。
本邦みたいにデッサンがカチッと決まって「整理整頓の行き届いた世界」ではなく、様々な色が重層的に折り重なる「玉虫色でグニャグニャした世界」。明らかにロシア圏の美術担当は、同じ美的感覚の下で仕事をしています。
で、最近とても気になっているのがロシア正教。「言葉」を最重視して、全ての拠り所を聖書に求めるローマ旧教&新教と違い、ロシア正教では偶像としての聖画も重要な信仰対象になってるからです。画だけではなくステンドグラスも信仰対象で、名作の写真集見ても「なんじゃこりゃ」状態なんですが、函館出身の方に聞くと色ガラスの組合せにも宗教観があるんだとか。そういうガラスの光に包まれてミサなんかをやってる風景を想像すると、ロシア圏の映画美学が判らなくもないような。
ともあれ部外者にはまったくわからない独自の美学が、教会分裂千年の歴史で醸成されてきたのは想像に難くないですな。悟り重視だというその教義も、西側諸宗派のように世界を縦割りにしてしまう暴力感がなく、西とは全く別の宗教観の下で映画人が育っているのを感じます。ソクーロフやタルコフスキーはともかく、あのベクマンベトフですらその美的枠組の中にいる…と思うだけでもそこに分け入って、世界観を覗いてみたくなります。
で、その世界に住む究極の監督と言っていいノルシュテインの、思いっきり宗教じみた本作。ロシア正教的な美術への入口編と言ってもいいし、言葉を換えれば到達点と言っちゃってもいいんじゃないすかね。冒頭なんか、聖画をアニメートさせてる時の宗教的高揚感みたいなモノまで感じちゃうし。本作自身が、20世紀から始まった「動く聖画」の鋳型になるかも(まあロシア建国の物語ですが)てな、そんな気迫に満ちています。こいつを見続ければ、得るモノがあるかもなあ。
まあ彼は同時に《エイゼンシュテイン主義》の最右翼でもありますから、ロシア正教だけでは上手に斬れないだろうとは思いますが。やっぱり彼の作品は恐ろしいな。