1.まず魏監督の来歴から楊德昌のスタイルをつい期待していると、肩透かしを食う。
冒頭のバイクの疾走などはまず『百年恋歌』現代篇を想起させ、風情ある地方部が主舞台となり、日本統治時代の回想が入るなど、どちらかといえば楊德昌というよりも80年代の侯孝賢的なルックを持つ。
序盤の垢抜けないコメディ・パートといい、詰め放題・拡散し放題の生温いドラマ展開といい、劇中でのなかなか結束しないバンドと同様にどうなることやらと最後まで心配になってしまうが、逆にその雑然・混迷ぶりがクライマックスのコンサートの集約感を一気に高め、高揚させる。
それまでの丁寧な人間関係描写あってこそ個々のメンバーの合奏が魅力を持つものになっている。
複数の世代、国籍、生活言語が共存する齟齬が生み出すドラマの実感、夕日に染まる漁港を始めとする美観にバイクの運動を組み合わせた情景ショットの見事さなど、徹底してローカルに拘ったゆえのヒットは肯ける。