1.追う側だった主人公が追われる身に墜ちるというありがちなSF作品なのですが、過剰なまでのグロさや一風変わったBGM、テーマに似つかわしくないねじれた笑いなどで映画に新しさを出すことには成功していて、水準以上の作品にはなっています。派手さはないものの個々のアクションには独特の美学とキレがあり、この監督さんはなかなかスジの良い人だと思いました。配役も面白く、ブルース・ウィリスやニコラス・ケイジが主演を張りそうな本作にジュード・ロウとフォレスト・ウィテカーを持ってきたことで映画に独特の味が出ています。。。ただしテーマを煮詰めることには失敗しているため、見た目以上の作品にはなりきれていません。原作のことはよく知らないのですが、映画を見る限りではサブプライム問題におけるプレデタリーレンディング(略奪的貸付)を題材にした作品のように思います。プレデタリーレンディングとは返済能力のない低所得者にロクな説明も与えず無理なローンを組ませ、過剰な手数料や物件の差し押さえによって利益をあげるという金融業者のあくどい手口。どこの闇金がこんなあこぎな商売をやってるんだと思いきや、アメリカでは大手の金融機関がこんな商売をやっていたのです。家を奪うということは人の生活を奪うということ、アメリカでは大企業が利益をあげるために貧乏人の生活を踏みにじっていたというわけです。本作はそんな社会問題をモチーフに命の差し押さえを行う世界的大企業を描いた作品なのですが、残念ながら現実世界の写し鏡としてのSFの域には達していません。舞台となる未来社会の文化・風俗の描写が甘いのです。みなさんおっしゃっているように主人公が人工心臓を入れるに至った経緯にしても、「なんで労災が適用されないんだよ」という当然の疑問が湧いてくるし、そもそも猫も杓子も多額のローンを組んでまで人工臓器を入れている理由がよくわかりません。ローンを滞納したために命を奪われることとなった人々の悲壮感も薄く、あらゆる面でイマイチ踏み込めていないという印象です。