1.これは今見ると、文学座の動く俳優名鑑としての面白さが一番だ。タイトルのとこでは多いため「主な配役」しか表示されない。そのほかでもチョイ役で有名役者がどんどん出てきて、いや当時はまだ無名の若手だったのか、そういうこと考えながら顔を見ているのがけっこう楽しめた。「十三夜」で娘役で出てきた丹阿弥谷津子は、後年帝劇で蜷川演出で「にごり江」をやったとき、同じ「十三夜」で今度は母親役を演じていた。そういう楽しみもある。で中身、「文芸映画」ってのの定義はよく分からないが、単に文芸作品を原作にしてるってだけではたくさんあり、そのフィルムの味わいが「映画」としてよりも「原作」により多く負っているのを「文芸映画」と呼べるとしたら、これなんか典型的なそれ。樋口一葉の日本文学史における重要さを改めて思った。あの人は江戸文芸的なものとプロレタリア文学とをつないでいたんじゃないか。話としては「おおつごもり」が好き。ただ原作にある「知りて序(ついで)に冠りし罪かも知れず」という膨らみがあんまりはっきり出なく、ただのショートショート的なオチに見えてしまう危険もある演出だった。けっきょく全体を通して完全な悪人は一人も登場せず、「社会が悪い」という話になる。陳腐ではあるが、この世の本質なのだな。