1.定職を持たずスリで生計を立て、女性に対しても奥手で、それでいて言動はツッパッている。
コンプレックスを抱え、人生の目標や明確な生き甲斐を見出せていない迷える若者像(外見は若者っぽくないが)が、本作の主人公ウーである。
器用に生きてきた人間には決して共感はできないだろう。
ウーは、長い目で人生をみることができていない。
それでいて、どこかで刺激を求めているし、カラオケバーで出会った女性には、一応恋心みたいなものを持ちはする。
しかし、そんなフラフラした男に、女性は魅力を感じるはずもなく、それは“一瞬の夢”と終り、失恋することになる。
自分の20代の頃の苦しみを思い出すようで、観ていると辛いが、その分、強烈に感情移入できた。
何かが満ち足りていないからこそ、女性にのめりこむが、満ち足りていないプラプラ人間だから、相手にされず、逃げられる。
それで余計にふさぎこむ・・・
このような負のスパイラル、苦悩の青春の日々に立たされているウーを、本作は淡々と冷淡に客観的にカメラに捉えているが、物語の最後も何も救済は行われず、突き放した形で、本作は幕を閉じる。
作品としては救いがないが、アメリカ映画のように短絡的なハッピーエンドやバッドエンドにするよりは、数段マシである。
青春の一時期を切り取ったような作品だから、そんな短時間で結論めいたものは出なくて当然で、むしろその方が自然でリアリティがある。
ところで、カラオケバーのシーンで、室内の照明の影響で画面が赤くなる。
本作の監督ジャ・ジャンクーを、“キタノブルー”の北野武が見出したわけだが、このカラオケバーのシーンは、まさに“ジャジャンクーレッド”とでも命名したい様な映像で、北野武とジャ・ジャンクーという二人の監督の接点を見た気がした。