1.後半になって俄然イキイキしてきた。積極的な悪役がいるわけではないのに、男の振舞いのなかに悪が出てきてしまう世界。不人情を、男社会に原因を求めているようで、溝口を初め、こういう視点は当時ずいぶんモダンだったんじゃないか。そういうモダンな視点にさらされるのが、吉川満子のおっとり妾。この描かれ方がうまいんだ。そろそろ邪魔になってきたので追い出されるのを、わざわざ別荘買ってもらってと喜んでいる。それに苛つくのが娘の田中絹代なわけ。女二人が新旧二つのタイプを演じるのは、二年前に『祇園の姉妹』あり、翌年に『暖流』ありで、このころの流行りだったよう。とりわけ『暖流』とは役者がだいぶ重なっている。佐分利信、水戸光子、徳大寺伸。本作のほうが視線が冷たいと感じるのは、監督が渋谷実と思って見ているからか。佐分利はただ野心家というだけでなく、母的なものに憧れてるってしたので、厚みが出た。「オールドブラックジョー」のメロディは二年前の『一人息子』でも使われてたが、昭和初期には何か特殊な意味があったのかな。人物が外に出たのは田中絹代が海岸を散歩しただけという実に内に籠もった作品でした。