1.私自身、猫ストーカーなところがあるので、とうてい客観的な評価は出来ない。ただ猫のいる世界の空気を実に的確に捉えているなあ、と感嘆するばかり。猫がいると風景が変わるんですな。具体的には視点が下がる、なにかこちらも隠れた場所から世界を見ているような緊張した気分になる、そして外界の音が猫のためのBGMのように思われてくる。主観的にしか断定出来ないけれど、この映画での町の音にはすごくその感じがあった。遠くで聞こえる子どもの声や何かの機械音などが、猫が存在する効果を上げるために鳴らされているように思われてくる。というか、猫と自分が世界から隠れているのを糊塗するために「普段」を装って奏でられているように思われてくる。だから、振り返ると塀の上でベターッと猫が寝ている、なんてシーンが実に嬉しい。あれが猫の味わい、共犯の味。それと秘伝の伝授によって、猫にタッチするにはときどき目をそらさないといけないことを教わった。つい見つめて逃げられてしまっていたのだ。ためになった。観終わってから、この監督、オムニバス映画『コワイ女』で一番面白かった「鋼」の人と知った。こりゃ覚えておいたほうがいい名前だ。揺れていたリンゴがピタッと止まる正確さ、ヒロインの顔のアップが挿入される的確さ、など猫がいないシーンも悪くない。