1.映画史上最もジム・トンプスンの小説の雰囲気を再現することに成功した作品ではないでしょうか。しかしジム・トンプスンはこの映画の公開当時小説家としてデビューしたばかりなので逆に影響を与えたと考えるべきなのでしょうね。それってつまり当時のパルプ小説の一番文学的な部分を拾い上げることに成功したということであって低予算の中で映画の本質に迫った作品というのはずれた評価だと思います。全編に渡りモノローグが多用されているのも低予算を誤魔化すためでしょうし、この映画の面白さって台詞の良さに大きく依存しているわけです。奇跡的に脚本の出来が良いだけでエドガー・G・ウルマーの演出は当時のハリウッドの中で飛びぬけて優れているわけでも異常でもないと思います。単に信頼できない語り手の手法を用いた映画を求めるだけなら1940年代あたりの文化に思い入れがない現代人ならばメメント等を見た方がいいでしょう。ただアルとスーとの電話では相手の応答は全く聞こえずまるで一人語りをしているように見える演出はすごいですね、これも上映時間を短くするための省略がたまたまそう見えるだけかもしれませんが。トム・ニールの童顔と倦怠感の釣り合わない感じが役のイメージにピッタリで素晴らしいです。アルとヴェラとの口論を見ているとフィルムノワールとラブコメは実は紙一重のジャンルなのかもしれないとも思えてきます。