1.ベルイマンが「オペラ」で認める2作品のうちの1つがこの「魔笛」なのだそうです。この作品を観た際にオペラを専門とする方のトークショーがあったのですが、第二幕がモーツァルトのスコアよりも構成がうまくわかりやすいと絶賛されていました。難解にとられがちなベルイマンですが、彼は映画はエンターテイメントだと言い切っています。そしてそのエンターテイメントは観客のためにあると。それが顕著に表れているのがこの作品だと思う。上記の第二幕の脚色もそうですが、本来のドイツ語ではなくスウェーデンの子供たちにもわかるように(そもそもテレビ放映用に作られている)スウェーデン語が使われており、さらに歌のシーンで字幕板まで登場します。それでもちゃんとオペラ歌手を使って作ってあります。一部の富裕層だけに楽しまれる「オペラ」を大衆にまだ引き下げ、いやこの場合“引き上げた”と言う方が的確でしょうか、つまり芸術は全ての人が楽しむ権利を持っているということがベルイマン思想の根底にあることがじゅうぶんに伺われます。クローズアップの多用はオペラグラスで観た視点ということかもしれませんが、映画だけが持つ視点でもあり、真上から、あるいは真後ろからの視点という劇中劇でありながらも演劇には不可能で映画では可能な視点の提供は「これは映画である」という主張のような気がしました。とにかく「映画」と「オペラ」を楽しみました。