1.黄色の鮮やかさ。全体のくすんだ色調の中で、ハッと目を引く。黄色とは、そもそも「黄昏」とか「黄泉の国」とか、日本では時間の終わりや死のイメージを含んで、淀んだドローンとした雰囲気を帯びがちなのに、この作品での死=黄色い花びらは、実に鮮やかなんだ。死者が明確に存在するのと同じ。監督の当時の心境の表われか。逃げつつ戻ってしまうというのは彼の生涯のモチーフで、共同体への愛憎が感じられる。記憶喪失のエピソードが一番いい。忘れてしまうことへの恐れがあり、忘れられてしまうことへの恐れもあり、その不安の中でかぼそく睦みあっているのが、なんと愛なんだな。今まで北方志向だったのが南方に向き、装飾性も控え目で、神話的なメロドラマを強調し、異質の手触りとなった。病をおして撮った映画ということで、とかく「遺言」的な見方をされたものだったが、監督はさらなる新境地を目指していたのかも知れない。