1.西川美和監督のすごいところは、人間の感情というものが複雑であり、矛盾を抱えたものであることを、2時間前後の、ストーリーも成立している作品のなかでちゃんと描けてしまうことだと思う。画一的に「善い人」、「悪い人」と、簡単に分けられないのが人間。本作のキャラクターそれぞれに、嘘やわがまま、嫌なところ、素敵なところがちゃんと見出せる。監督は、現代の医療が抱える問題の中に、愛情を主にした、人間ドラマを巧みに融合させている。作品の性質上、刑事の語りなどにどこか説明的とも思える箇所はあるが、それでも充分リアル。あまりにキャラクターが普通の人たちすぎて、役者さんたちはこの脚本を演じるのが難しかっただろうなあ。でもだからこそ、主要キャストはベテランばかりなのかもしれない。感情の読みにくいつるべの小さい目が、こんなにも生かされる作品って、そうはないでしょうな。