5.国家に誇りと音楽を奪われた芸術家たちが、パリでふたたび演奏するまでのお話なのだが、真面目な日本人としては、パリに着いてからの演奏家たちのドタバタぶりがどうも笑えない。
やる気あるの?音楽家としての誇りはないの?リハーサルなしでできるもんなのか??と、イライラさえしてしまう。
しかし「アンヌ=マリーのために」この一言で、集まった楽団員たちの演奏シーンですべてが氷解する。
ジャケの正体を知らない彼らにとって、彼らのチャイコフスキーは奪われたままだったのだ。
本番で彼女の演奏を聴いた彼らはすべてを悟り、そして、チャイコフスキーの調べに乗せてすべての謎が解けるという怒涛の展開。
このラストの演奏シーンは圧巻。
楽団員たちがロランを見て交わし合う視線と力強い演奏は、圧倒的な説得力を持って観客をねじ伏せる。
ねじ伏せられた私は、チャイコフスキー協奏曲の完結に立ち会い、これ以上ない幸福感を味わった。