3.渥美・おいちゃん(ここでは松村達雄になってしまったが)・おばちゃんの演技と、倍賞・前田の演技の質の違いをうまく使ってるんだなあ。こういう異質な要素が混在するって、コメディを作るときは難しいと思うんだが、それをうまく使っている。寅がヒロシをからかうと「ひどいこと言うなあ、にいさんは」なんてあたり。ヒロシのマジメくささを微笑ましく見せるような笑いの場に変えて、二つの世界のズレを生かしている。たぶん前田吟は「若者たち」の山本圭に連なるキャラクターで、60年代だったらそのままで堂々と主役を張れたはずだ、マジメさだけを売り物に。ところが69年に断層が出来、プログラムピクチャーの本通りが東映の仁侠映画から寅さんシリーズに移ったように、マジメがマジメだけじゃ使えなくなってしまった。マジメの前田吟を、異質な要素としてときにからかい・ときに逆にとらやの人たちを対象化する存在として、とらやに呼び込んだよう。寅の恋の物語としては、ベースの形を味わえる。「また来るって、また来るって」とか「ヨシッ」とかウキウキするかと思うと、二人っきりになるとオロオロしてしまい、さくらが帰ってくるとホッとしてすがるあたり。ほんと子ども。だから大人の相談に入れてもらえない。本シリーズでは『七人の侍』の面々が、“男らしさを無理に貫く寂しい人”として登場するが(あと志村喬や三船敏郎)、今回の宮口精二も良かった。監督の『七人の侍』へのオマージュであり、また批評でもあるんだろう。