8.老教授の栄典をめぐる1日を90分余に凝縮して描き、生と死、老い、家族観など人生の機微を散りばめた珠玉の一遍。
人との関わりを避け仕事に集中して生きてきたが、功成り名遂げても心の空洞を抱える老教授。老人の虚無感や孤独感・死への恐れといった内面が表現される。
冒頭の夢のシークエンスはドイツ表現主義を彷彿させるもので、絵画的構図が秀逸。詩的・哲学的でシュールな画づくりは主人公の心理を巧みに視覚化しており、針のない時計は特に印象的で、“死”のイメージを怖いほど漂わせる。
回想シーンは、現在の姿で過去と向き合うことにより、孤独感や後悔の念が滲み出ている。道中における若者たちの生の実感と老人の孤独感の対比も見事。
3人の若者との交流や息子夫婦との対話、心が通じ合った家政婦とのやり取りなど(ガソリンスタンド店主の感謝も重要)を通じて主人公の心理は徐々に解きほぐされる。最後に寝床でみせる表情は孤独や死の恐れからの解放を示すもので、前夜の夢(不安)と対照的な安堵があった。
主人公の内面の変化を通して人生の価値を感じさせる作品。