5.石井克人というクリエイターの作品は嫌いではない。
「鮫肌男と桃尻女」を地元のミニシアターで初めて観た時の感覚は鮮烈だったし、「茶の味」の和みと辛辣が混じり合った独特の世界観は忘れられない。
彼がかつて日本の映像界のトップクリエイターであったことは間違いないことだと思う。
しかし、スタイリッシュでセンセーショナルな映像世界は、時間の流れとともに見古されてしまうのが世の常。そこに時流とともに「進化」がなければ、見栄えのしないものになってしまう。
残念ながら今作は、過去からの進化を伴っていないクリエイターの特に見栄えのしない映画にしか見えなかった。
スピード感が重要なストーリーの筈だが、くだらない描写が所々に挟み込まれるせいか、展開が酷く愚鈍に感じて仕方なかった。
原作漫画も読んだが、特に好きになれなかったので、そもそも個人的な趣向に合わないだけかもしれない。
突き詰めれば至極単純なストーリーなのだから、映画的にはもっとタイトにまとめたほうが印象は良かったと思う。
伝説的な殺し屋を運送するというのが、この話のキモなわけだから、その部分に焦点を絞り、主人公と殺し屋との掛け合いを主軸にした方が、クライマックスの拷問シーンも際立ったと思う。
随所に“やり過ぎ”なキャラクター描写も鼻に付くばかりで、無意味だった。
ほどよく豪華なキャストが揃っていて、それぞれ一生懸命パフォーマンスをしているが、それらがバラバラでチープに見えてしまうのは、ひとえに監督の責任だろう。
安藤政信演じる殺し屋“背骨”が、エクソシストばりに“奇怪”な動きをする様には「本気か?」と呆れてしまった。
高嶋政宏の懸命な怪演にもただただ失笑。