1.きっとこの世の中には、人が人らしく当たり前に生きるための“障壁”となっている“決まり”がまだまだ沢山あって、自分自身も含めた人々は、そういうことを知らなかったり、気づかないふりをしているのだろう。
“障壁”を受ける当事者だけが、それの解消に文字通り「生命」を懸けなければならない世界では、あまりに生き辛い。
主演俳優があたかも実際に「生命」を削ってみせているような名演で表されたこの映画は、ある日突如として過酷な運命を背負うこととなった一人の男の奮闘と、彼自身さえも含めた社会の無知と傲慢を訴えてくる。
そして、エイズ患者ばかりではなく、同性愛者、低所得者、社会における不遇を受ける人々の感情を多層的に映し出していると思えた。
ただ一方で、多層的な構造は、図らずもこの映画の主軸で描かれるものが必ずしも正論ではないことを垣間見せる。
主人公が巻き起こしたムーヴメントは、社会の矛盾に風穴をあけたことは確かだろう。しかし、文字通りに進退窮まった状況での苦肉の策であったことも事実。
果たして、彼の行動によって、彼に関わった人々は真の意味で救われたのか、その後の社会は救われたのか、そして彼自身は……?、そういう本質的な部分にもう少し踏み込んでくれたなら、この映画は更に傑作になり得たと思う。
とは言え、この映画世界に息づいてみせた俳優たちの演技は物凄かった。
マシュー・マコノヒーとジャレッド・レトは、文字通り「生命」を懸ける様を演じ切ってみせている。
両俳優の一挙一動を追うだけで、映画を観るということの満足感は満たされるだろう。