1.ショーン・ベイカーは実力のある監督です。ロングショットで映される風景のスケール感、限定された音楽の使用、貧しい寂れているはずの地域をファンシーで色彩豊かな空間として捉える一方で登場人物が世界のどこかに実在していると確かに感じさせるリアルな人物造形も両立しているのは大したものです。しかし子供が主役だったフロリダ・プロジェクトに比べるとこのファンタジックなアプローチが題材に対して適切なのかは疑問です。ありのままの姿を肯定するだけなら良いのですが、この映画は男性のための都合の良いファンタジーに近づきすぎ、より多くの人間に評価される余地を自ら失っていると思います。2016年大統領選挙の様子がテレビで流されていますが、それに対する劇中の人物たちの態度が曖昧なように最終的にこの映画が何を伝えようとしているのかもよくわかりません。フロリダ・プロジェクトと同じように唐突なエンディングですが、前作のような切実な幻想シーンとしての説得力を持てていないのです。