5.ラッパに合わせ行進する軍隊、はためく日の丸、昭和19年製作の陸軍省後援の映画だ。およそ内容は見当つくが、それでもお国のために身を捧げる精神や本心では我が子のことを案じながらも、表だってはそうはできないという当時の世相がよく現れている。 【ESPERANZA】さん [DVD(邦画)] 7点(2013-09-07 06:07:22) |
4.ホンネとタテマエの微妙なせめぎあいを得意とする作家にとって、最終的にホンネが前に出てくるか、タテマエを押し通すかということは、さして重要でなかっただろう。そのせめぎあいを描くのが好きなので。子を思うホンネをじっと抑えて公に奉公する姿を美しいとしていた時代、「このようにみな公のために私情を捨てて頑張っているんだなあ、私も耐えねば」というメッセージになっており、反戦映画とまでは言えないだろう。笠智衆演じた人物なぞ、そのまま戦後に描けば青年を死に追いやった否定的人物となるわけで、そこらへん史料として観られる。「男の子は天子様の借り物」というタテマエを、最後はホンネを越えて主人公は肯定せざるを得なかったわけで、それを美しいと捉える視線はあり、システムを批判してはいない。ふと思ったんだけど、長回しが多いのは作家性の要請というより、フィルムを無駄に出来なかった当時の制約もあるのではないか。東野英治郎との頑固者同士のユーモア。真っ先に宮城へ参らなかったと叱る父、教科書を踏んだと叱る母。何も反戦映画だから名作と無理しなくても、タテマエの浸透していた当時の社会の記録としてこそ名作と呼びたい。 【なんのかんの】さん [映画館(邦画)] 7点(2013-01-25 10:10:38) (良:1票) |
3.出征する兵士の列の中に我が子を捜す母。10分くらい続こうかというその有名なラストシーンが見たくて、鑑賞したのだが、戦意高揚のための教条的なシーンが多いため、映画としての面白さはなかった。このラストシーンについては、木下監督が反戦の思いを託したシーンであり、検閲を巧妙に逃れたものだとする説を聞いたことがあるが、率直に感想を言えば、母の息子に対する愛情を表現しただけであり、検閲した者にも、そのくらいの事は十分わかったに違いない。一人前になって巣立っていく息子に喜びながらも、その身を案じる母。現代の我々にも通ずる思いであり、この映画を見ただろう帝国陸軍の将兵たちも、胸にジーンときたに違いない。途中、桜木が仁科大尉に戦地にいる息子の消息をしつこく尋ねて、たしなめられるシーンがあるが、親の子への思いがにじみでている。ラストシーンと並んで、忘れがたい場面だ。 【駆けてゆく雲】さん [ビデオ(字幕)] 5点(2007-01-07 12:43:09) |
2.オープニングでの藩士が語る「これからはアメリカやイギリスが鵜の目鷹の目でやってくる、藩の為に死ぬのはワシ等で最後にしなければならん」藩を国に置き換えれば思いっきり反戦思想な言葉で始まる。ラストではセリフに出して何かしゃべってしまえば切られてしまいかねないところを、子を想う母として見せるだけに留まらせる事で母の心の内はどのようのでも取れるというギリギリの部分で見せきってしまう。木下監督は「二十四の瞳」でもそうですが無駄なセリフや映像を見せない事で強いメッセージを残す事が抜群に上手いです。 【亜流派 十五郎】さん [ビデオ(字幕)] 9点(2006-01-09 00:15:26) |
1.親子3代にわたり日本陸軍に捧げ尽くす一家の様子を、その周辺の人々を絡めつつ長男の出征までを描いています。そして、有名なラストシーン。陸軍一家を描いていた展開から、急転、田中絹代演じる“母”の映画へと切り替わる。大切な人を戦場に送り込まれる“女の心情”を代弁しているのには違いないが、受け取り方次第ではいかようにも解釈出来る。私としては、強烈に胸が締め付けられ涙なしではいられなかった。それまでの淡々とした物語がかき消されてしまう程、鮮明にまぶたに焼き付く。エンディング間際に両目を閉じ、手を合わせるシーンで幕が下りる。心の中で誰に何を祈ったのであろうか…。「お国の為」「天皇の赤子」「死して …」…等々、口では唱えるがこれらはすべて表向きで、作り手の本心はこのラスト10分にある。木下作品の特徴ともいえなくはないが、本作が放つものは暗くて悲しい。そう、厭戦的とも受け取れなくはない。陸軍省の検閲を見事かいくぐり、公開されたという。監督木下惠介、これだけは譲れないという執念のラストシーンだったのでしょう。 【光りやまねこ】さん 9点(2003-12-31 23:20:31) (良:4票) |