1.アン・シャーリーを連れ戻しに来た男たちを、「甥の嫁は渡さん。」と撃退し、
粗末な身なりの彼女に妹の形見のドレスをプレゼントするウィル・ロジャース。
口の悪い彼に反発していた彼女も、その一件を境にいっぺんに彼を大好きに
なってしまう。
彼の右頬にキスし、もらったドレスを大事そうに抱きかかえる彼女の仕草の
何と可憐なことか。
その心変わりを大いに納得させる彼女の素直な瞳が美しい。
絞首刑判決となり護送されるジョン・マクガイアとの別れの際、
駅の丸柱に寄り掛かって悲しむ
彼女の左手の薬指にはめられた指輪をさりげなく映し出すカメラは、
その表情以上に彼女の心情を語る。
偉人の蝋人形を窯にくべていく、といったアナーキーな賑やかさの一方で
ヒロインの心情を繊細に演出する細部の気遣いが尚のこと光る。
文句のない傑作だが、ダン・フォードの『ジョン・フォード伝』によると、
就任間もないダリル・ザナックが、すでに完成していた本作の「編集にハサミ
を入れてテンポを速め、野放図な所作が見受けられるギャグシーンのあれこれ
を切り捨てた」らしい。
確かに映画は展開が早く、グリフィス的救出と大団円後の
後日談などはわずかに2ショットだ。
現在の主流シネコン映画とは真逆の潔く鮮やかな〆具合の現行版も悪くないが、
本来のいわゆる「ディレクターズ・カット版」はどんなものだったのか。
興味はつきない。
「脇道にそれたり、道草を食って筋に関係ない何かに焦点を合せたり、そんな
類のことを軽くやるのが好きだった」(ナナリー・ジョンソン)
それがJ・フォード作品の魅力なのだから。