74.自然光だけ撮られたらしい、くっきりと陰影がつき少しざらついた画質に、ナチュラルにくすんだ色の大地、建物、人々…カスティーリャ地方の荒涼とした風景とあいまって、日本人がスペインとか南欧という地名に、勝手に抱いてしまう「快活で陽気な」イメージを裏切ってゆきます。僕はそれだけで、このフィルムに信頼を寄せてしまいます。どこか内乱後の人々の心象風景とも思える「色」を喪失してしまった世界に、唯一暖色を添えるのは、ハチミツの色。ハニーゴールドというのでしょうか。そのやさしい光は、アナとイザベルの寝室に差し込んでいます。そこだけ陽だまりが出来たように、まるで外の荒れ果てた現実世界と寝室を遮断して、幼い彼女らを守っているかのよう。僕は自分の幼少期と重ねあわせ始めてしまいます。当時を過ごした家、庭、周囲の風景、学校…そうなんだ、確かに僕にもやさしさに守られていた少年期があったのだなぁと。でも、僕もそうであったように、あのハニーゴールドの窓を自ら開け放って、そこから抜け出る日が近いようです。アナは自分自身と自分のいる世界を見つめるかのように、その大きな黒い瞳をさらに広げる。その覚醒前夜の最後の光を宿した黒い瞳に、はかない美しさを見出します。その一瞬をフィルムにしっかり留めている。ハニーゴールドは消え去り、夜明けの青白い光の配色をともなって、アナに幼少期の終わりを暗示し始める。アナは外の世界、現実の世界へと飛び出してゆくのですね。田園風景の中を地平線に向けて一本の汽車の鉄路が続く…アナはいつの日か、汽車に乗って村を出てゆくのでしょうか、まるでミツバチのように、自由に国中を飛び回る日が来るのでしょうか。内戦も喪失感も知らない、新しい純粋な子供たちが新しいスペイン中ですくすく育っている。すくすく育てよ、穢れなき若い命よ…静かな作風の中に、監督の激しいまでの自国への愛と願いが込められているように思います。ああ、アナたち、この国の明るい未来を予見させるに余りある。 【BUNYA】さん 10点(2004-03-15 00:10:49) (良:3票) |
73.子供の方が世界を真摯に見ていると思う。まだ世界の何にも毒されていないから、何ものにも寄らない本当の中立の立場で世界と向き合える。変に複雑化・細分化された大人の感覚よりも、時として子供の方が真理に近いところに近付ける。ただそれを伝える表現手段を持たないだけで。知らず高みに到達し、そこから畏怖すべき無垢を湛えながら絶対的下位にある不条理で残酷な世界を見詰める、アナ・トレントの不純物ゼロの瞳が、胸に痛い。 【ひのと】さん 10点(2003-12-22 15:14:18) (良:3票) |
72.スペイン内戦の傷跡は直接的には脱走兵のエピソードとして登場するが、画面は常にその傷跡を映し続けているかのようにどこか寂しげだ。しかし政治的な思想が画面を覆っているかといえばそんなことは全く無く、ただその時代を象徴する風景が映されているだけ。フランケンシュタインの怪物と脱走兵はあきらかに社会に受け入れられずに排除されるべき対象として比喩的な関係で描かれるが、ここでも政治的な思想よりもただただ現実の悲劇性を背景の中に溶け込ませているだけ。その一つ一つの情景にはいろいろな意味があるのかもしれない。でもこんなにも詩的な美しさを見せられたらそんなことはどうでもいいやとさえ思わせる画の数々にうっとりする、そんな見方も許される映画。いや、その見方こそが正しいのかもしれないし、いろいろな意味を感覚的に刺激するパワーをこれらの画が持っているのかもしれない。純真無垢な少女が自らの虚構の世界に怪物を出現させ、自らを傷つける。子供から大人への成長を表現しているのだろうが、そのことがどちらかというと不幸のようにも映る。しかし映画は現実の悲劇性を見せても、けして現実が不幸なものとはとらえていないとも思う。だから深いんだ、この映画は。 【R&A】さん [DVD(字幕)] 8点(2006-05-01 17:12:34) (良:2票) |
71.アナのかわいらしさだけでも十分なんですが、それとは裏腹にとっても深い作品です。年齢の差はほとんど無いのに、まだ善悪の判断もはっきりと判らないアナと、ほとんどの事象についてもう分別のある姉との対比、両親の根底にあるスペイン内戦の傷跡からくる悲観的精神状態、どこまでも絵画的で詩的でもある映像、フランケンシュタインを精霊に見立てた発想、アナのストッキングの色の違いだけで時間の経過を見せる等々の素晴らしい演出。。。これだけ無駄なく上手にやれば(けれどもいっぱいいっぱいに詰め込んだという印象は全く無い)、たったの90分でこれだけの作品が創れるんですね!これを見て以来、密度の薄い2時間以上の作品を見ると、本当に損した気分を味わうようになりました。 【クロマス】さん 9点(2003-01-23 23:25:09) (良:2票) |
70.いつも通り予備知識ゼロで鑑賞。風景の美しさは特筆もの。しかし、監督は何かを訴えたいのだろうと感じて期待したものの、何かが最後まで解らずグッタリ。ストレートにモノが言えなかった監督の立場が解ったあとでも見直してみたいとは思えない残念な作品。 |
69.ドン・ホセがハンサム過ぎる・・・。一生自由を得ることのない働き蜂について父親が語る時、それは時代の閉塞感と子供たちの暗い未来を語ってもいるのだけど、作品の背景にあるスペイン内乱。大恐慌から世界大戦へと向うその時代の閉塞感というものは、何だかこの、世界が不況にあえいでいる21世紀初頭の今とリンクしている気がしてならない。なりふりかまわぬ通貨安競争、近隣窮乏化政策。そしてTPPの行く末にあるものは、かつて日本を追いつめたブロック経済ではないのか?次に追いつめられる国は?(って、まあ、そりゃ、ねえ) 冷戦下より、まさにこの今こそが、真にヤバいんじゃないのだろうか。とか思いつつ。この映画ではそんな不安の時代(今、まさに我々が抱える不安でもある)を背景に、その軸(大人の世界)と直交するように、子供と“死”との戯れ、という軸が描かれる。これは内乱の不安とは別個に存在する永遠の不安。両者がクロスした時、不安の二乗、どうにもならない閉塞感。イザベルがふざけて死んだふりをすることができるのは、明らかに「生」の側に立ち、「死」というものを知識として把握できているからだろうけど、その点、汽車が来るギリギリまで線路に立っているアナの方が「死」に近いポジションにいるのだろう。火を飛び越えて遊ぶイザベルの行為は確かに危険ではあるけれど、その後、暗くなるまで火を見つめているアナの方が、よほど危険な立ち位置である。ふたりで遊んだ、井戸の横の家は、アナと脱走兵の交流、すなわち死との交流の場となり・・・。直交する軸は二度交わることがない。解を見出すことなく、「どうにもならなさ」だけを残して、映画は去ってゆく。そして今また再び、我々は、見出すことの決してできない解を見出すこと、を求められる時代に生きているのかも知れないのだけど。 【鱗歌】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2012-02-04 03:51:28) (良:1票) |
68.子どもが最初に衝突する大きな壁〝死〟を扱いつつ、純粋な視点を通して戦争をはじめとする世の中の諸問題に疑問を投げかけたような作品ですが…これは底無し沼のように深いのかもしれません。フランケンシュタインから始まる寓話のような物語は言葉少なでゆったりとしながらも刃物のように鋭い。それに加え、あの室内に射し込むやわらかい光、構図の美しさ。まるで一つ一つの画が一流の芸術作品のような映像美で迫ってきます。イザベルが猫の首を絞め鏡の中で血の口紅をぬるシーンや焚き火を飛び越えるシーンも凄いし、それに対して澄んだ瞳が雄弁なアナも良い。踏み潰される毒キノコもまた一つのエッセンスとなり強い印象を残しています。夫と妻にもそれぞれ問題を描いており、種々のメタファーが隠れているようで、観れば観るほどその奥深さに気付き驚かされます。ただ、幸か不幸か私が多くを読み取るにはまだ何回も観直さなければならなそうです。でも監督はそのために10年もの猶予を与えてくれていたりして。 【ミスター・グレイ】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2007-05-18 18:24:50) (良:1票) |
67.ああ今みたいにヤバイ精神状態の時に見るべき映画じゃなかった。全てが死や絶望のメタファーに見えてしまう。アナ・トレントの瞳にいたっては「滅びゆくもの」の記号としては最強じゃないですか!点数をつけるのは遠慮したいところですが、現在の平均点が7.95なので8点ということに。 【馬飼庄蔵】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2005-07-18 12:35:33) (良:1票) |
66.アナくらいの年頃にあるんですよ。世界はどこかよそよそしく漠然とした不安に満ちている・・・でもそれは次第に空気のようにあたりまえのものになってゆく。それが自我の目覚め(ドン・ホセの目)なんでしょうね、忘れていた気持ちです。素晴らしいです。 【ジマイマ】さん [ビデオ(字幕)] 10点(2004-03-22 13:14:38) (良:1票) |
65.夢とも現実ともつかない遠い記憶にあったものが、呼び戻されたような作品。いうなれば、秋深まる頃に表れるデジャ・ビュ。カメラの位置と構図、それと光と影の使い方が抜群に上手く絵画的センスの良さを十分に感じさせてくれる。妖精のような少女アナが、このアーティスティックな作風に見事溶け合っておりいつまでも記憶に残る。さらに「フランケンシュタイン」の恐くて悲しい物語りを取り入れるなど、ミステリアスな味付けも巧みだ。視点を変えて観るたびに、新たな発見があるという静かだが奥の深い名画。 【光りやまねこ】さん 9点(2004-02-29 19:40:32) (良:1票) |
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64.アナ・トレントはまだ幼すぎて、映画が虚構である・ヤラセであるということを理解していなかったそうなんです。そんなこともこの奇跡的な映画の誕生に一役買っているのかもしれませんね。 【じゅんのすけ】さん 10点(2003-07-12 05:56:14) (良:1票) |
63.子供の無垢さって無防備で柔らかいんですね。自然とすごく近くなれたり、夢と現実が時々交差したり、誰かに対してもの凄く残酷になったりする。そんな子供の頃の感情のカケラをおぼろげに思い出すような、どっか連れていかれそうになるような美しい作品です。 【黒猫クロマティ】さん 9点(2003-05-07 17:36:45) (良:1票) |
62.へちょちょ星人さん!なった、なった!アナ・トレントの虜に!僕の中の「ベスト女優U-10部門」でダコタ・ファニングを抜いた!すまん、ダコタ。ベッドに入ってから姉のイサベルとヒソヒソ声で話すところとか、最高!。あの瞳がもーたまらん・・・ってこんなこと←ばっか書いてると単なる幼女好きの危ない奴と思われてしまうな。僕はこのJTNEWSのレビューコーナーを見て「今まで知らなかったけどなんか気になるし観てみたい映画」リストを作ってるんですけど、この作品もそのひとつだったんですよ。いや、こういうヨーロッパ映画で芸術の薫り高い作品って今まであんまり観てきていないから退屈だったらどうしよう?と思ってたんですけど全然そんなことなかったです。確かに台詞は少ないしちょっと分かりにくい所もあるし、そういう意味ではそれほど親切な映画ではないのかもしれませんが、その代わり映像がすごく「語っている」んですよね。広々としたところを人が走っていくシーンとか、すごく詩的で、理屈でなくジーンときます。個人的に印象的なのは立ち尽くす姉妹の前を蒸気機関車がゴォーッと通り過ぎるシーン。それに二人の姉妹もすごく可愛いし(いわゆる純真無垢な面だけでなく子供の無邪気な残酷さみたいなものも描かれているんですよね)。これは何度も観たくなる映画だなあ。ところでへちょちょ星人さんも仰られてますがこの映画のビクトル・エリセってホント寡作の人みたいですね。さっきネットで調べたんですけどこれ以外に「エルスール」「マルメロの陽光」という作品があるらしいです。むむ、観てみたい。 【ぐるぐる】さん 9点(2003-04-28 19:34:09) (良:1票) |
61.吸い込まれそうな映像美。タルコフスキーのそれとはまた違った感覚がとても美しかったです。少女もかわいいのに凄い切なくて、そんじょそこらの映画女優もビックリでしょう。決して触れてはいけない、触れたら壊れてしまう宝石の様でした。エンターテイメントではありません。アートです。 【カエル】さん 10点(2002-11-04 01:12:10) (良:1票) |
60.スペイン内戦を時代背景に、少女の視点を描いた文学の香りのする映画。フランケンシュタイン、毒キノコ、脱走兵、焚き火、血の口紅――幾つもの寓意を含んで深みがあり、婉曲的な表現で感性に訴える。 高尚な感じはするが、シュールで苦手なタイプの作品なので好きにはなれない。小説なら心理描写があればわかりやすくなるが、映像だけではなかなか難しい。 【飛鳥】さん [DVD(字幕)] 4点(2016-07-31 01:46:17) |
59.確かに良い映画らしく流れているが、幼子の純粋な心の中と大人たちの詩作との融合において 映画の脚本が作りきれていないのか、観た人にゆだねるのか。観たときは、なるほどとも 思うが、5年後心に残るものがあるだろうか疑問だ。 【cogito】さん [DVD(字幕)] 7点(2015-11-15 23:34:12) |
58.大変申し訳ないのですが、私の頭では、最後の最後まで何のことやらさっぱり理解できませんでした。アベシ! 【マー君】さん [DVD(字幕)] 1点(2015-10-10 21:47:25) |
57.印象的なシーンは幾つかあるも 全体としては退屈な映画。 過大評価されているのでは? |
56.映像・音楽・演出と、すっごい静かで綺麗な雰囲気が出ていますね。全てが奇跡的に撮れたんだろうなぁ・・。全編動く絵画を観ているかのよう・・。主人公アナの瞳もとても澄んでいて吸い込まれそう。まだ現実と空想の区別が曖昧な年頃の女の子を、子供の視点から見た世界で見事に描き切り、素晴らしいです。 【けんおう】さん [ビデオ(字幕)] 7点(2013-12-24 13:46:41) |
55.いや~、笑っちゃうほど70年代ですね。フィルムの質感とか(予算がなくていいものが使えなかったのかも)。室内で照明を使わず、できるだけ自然光で撮っているところとか。セリフを抑えて妙に難解なところとか。以前から名前を出している、佐々木昭一郎のドラマに通じるところがあります。当時はこういう撮り方がイケてたんですね。 まあいろいろと論じられているようですが、フィルムを見ているだけで引き込まれますし、難解(意味不明)であっても、こちらを引きつける力を持った映画だと思います。とりあえずは、それだけでも十分でしょうか。 映像で語っているものに対し、言葉で(後付けの)説明をする。ましてや言葉を重ねてダラダラと書き連ねるのが、なんだかみっともなく思えてきます。そういうものに点数をつけるのもどうかと思いますが、一応無難な点で。 言語化も数値化もできないものを持っているということでは、すぐれた「映画」作品でしょう。好き嫌いはまた別の話ですが(私はまったく好きになれません)。 【アングロファイル】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2013-06-30 11:00:15) |