1.まずタイトルが素敵です。この映画は、単独飛行距離の新記録を樹立した女性パイロットの実話をもとに、ドイツ占領下という当時の困難な時代背景を少しも感じさせずに、自由や希望、家族愛などを力強く描いた美しい作品です。主人公は記録の挑戦にむけて、夫婦二人でつくった無線も無い飛行機に乗って果敢に飛び立ってゆきます。ピアノのエピソードなどを絡めた丁寧な生活情景の描写によって、そこにいたるまでの夫婦の間の堅い絆と信頼を、開放感あふれる屋外の飛行シーンによって、そこまで夫婦を駆り立てる空の魅力を、それぞれ余すところ無く伝えています。また、夫婦の夢に理解を示す飛行クラブの会長やピアノの先生といった登場人物の存在も、感動を深いものにしています。他に印象的なのは、黒っぽい制服を着た孤児院の子供たちの可愛い行進です。物語と直接関係はなく四回ほど登場します。夫婦が飛行機に熱中して二人の子供をかえりみないようになってしまうのですが、その二人の子供がポツンと佇んでいると、窓の外をテクテク行進していったりするのです。彼らは不安を具現化したような存在として登場し、そのため彼らがテクテクと去って行くラストにも、そこに込められた思いのようなものを感じずにはおれません。作品は詩的レアリスムの中に、シュールレアリズムや記録映画的な趣もうかがえる独自の世界です。ジャン・グレミヨン監督は、サイレントや実験映画など、その多才さのあまり、いずれのジャンルにおいても筆頭に記されることの無い「呪われた作家」とよばれることもあるそうです。レビューが一つだけなのは、心許ない限りです。